2020年9月21日

第10回書き出し祭り 第3会場感想その1

投稿者: フィーカス

 書き出し祭り感想第3会場です。

 第3会場は多くが募集期間の中間に当たる期間に出された作品で、初参加の人が集まりやすい会場と言えます。この辺の作品は個性が強いものが多くなります。

 また、大体どの回でもPVが最も少なくなりがちで、全体をみるとやや不利な会場です。とはいえ全体優勝者は第3会場から出ていることもあり、少し目立つと票が集中しやすいことから、会場トップを目指すならあえてこの会場に入ろうとするのも戦略的にはありかもしれません。

 今回10-3-1から10-3-8までです。

10-3-1 喪心の魔術師と蒼刃の付喪神

https://ncode.syosetu.com/n0348gl/2/

 事故で心臓を貫かれた主人公が、その刀の付喪神と共に一人前の魔術師を目指すファンタジー。

 恐らく「バディもの」に位置づけられるでしょうが、付喪神に加えて魔術も習得するという設定はかなり凝っていると思います。

 説明が結構長かったため、例えば一戦交えるなどして、方向性や物語の趣旨を示してほしかったところです。とはいえ設定がおもしろそうなので、今後の物語に期待ができます。

10-3-2 殺人厳禁暗殺者

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 学校生活の裏で闇ギルドで暗殺を主にした仕事をしている主人公が、暗殺を封じられる仕事を任される現代ファンタジー。

 まずタイトルが良いですよね。「え、暗殺者なのに殺人厳禁ってどういうこと?」と読者に興味を持たせるタイトルになっています。「禁止」ではなくて「厳禁」なんですよね。「禁止」だったら印象が弱くなっていたと思います。

 ストーリーも王道的なギルドものの流れになっているため、とても読みやすくなっています。最後に無茶なミッションを任されて引きを作っているのも、書き出しとして良いと思いました。

 ただ、このタイトルなのですが、今後長編として連載していくには大きな足かせとなる気がします。今は書き出しだけなので「おもしろいタイトルだ!」という高い評価を得られると思いますが、連載に当たっては「殺人厳禁」が結構厳しい制限になります。これで殺人ありの普通の闇ギルドで仕事をする話だと、このタイトルにする意味がありません。逆に、「この制限でどうやって話を進めるのか」という点については非常に大きな興味が持てます。

10-3-3 〈神の目〉探偵の超能力事件簿

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 超能力を持つ探偵が、同じく超能力を使ったとしか思えないような犯行を繰り返す犯人を捜すミステリー。

 最近はこういった、人外の力を使うミステリーというのもちらほら見かけるようですが、当作品は「比喩表現になぞらえて犯行を行っている」という理由づけを行うことで、「それは超能力を使わないと出来ないな」という納得感を生み出しています。

 さて、作中でも言及されていますが、こういう「超能力あり」だと、ミステリーでは「何でもあり」になってしまい、面白く無くなってしまいます。これを「何でもあり」にさせないためには、適切な情報公開をし、読者に対してフェアな条件を設ける必要があります。

 そう考えると、相当の力量が無いと「人外能力ありのミステリー」は成立しないのですが……当作品の場合、どのように物語を調整していくのか、続きが楽しみです。

10-3-4 親の罪を受け継ぐ竜と幼女は汚れて生きる

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 両親を獣人に殺された幼女が、ドラゴンと出会うファンタジー

 内容は読みやすく、情景がすっと頭の中に入ってくるようです。

 ただ、書き出しの段階では「どちら側の立場で読めばいいのか」というのが分かりにくいと思いました。幼女側の立場で読むべきか、ドラゴン側の立場で読むべきか。あらすじやタイトルからすると幼女の親は物語上では「罪を犯した存在」であり、獣人側の方がストーリー上の正義のようにも思えます。

 今後の展開によって「どういう話か」というのが明らかになってくるのでしょうが、出来れば書き出しの時点で読者はどういう風に読めばいいのか方向性を示していたほうが良かったのではないかと思います。

10-3-5 Queen of Artifact

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「作りものの」の女王が政治を行う世界で、それらに反発する者たちとの話を描いたファンタジー。SF?

 文章の書き方が全体に機械口調なのが、物語の特徴とマッチしていると思いました。作りものの王女という設定も、とても興味がそそられます。

 ただ、この設定を使ってどういう風に話が進むのかイメージがしづらいと感じました。「機械の女王」ならではのエピソードと共に、「この話がどういう話であるのか」という点が書き出しで示していれば良かったと思いました。

10-3-6 機神エンゼルハイロゥは月を堕とす

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 地球が汚染された世界で「エンゼルハイロゥ」と呼ばれるロボットと共に、主人公が月を目指すSF。

 本格的なSFやロボット物だと、ロボットや機械のスペックが分からないと話にならず、世界観が重要になるためかなり説明が多くなってしまいます。そういった理由から私はあまり得意ではなく、適切な書き出しがどういうものか分かりません。

 本作品も、ロボットのスペックや世界観が書き出して重視されており、終盤では主人公の絶望感を描写することに読者を引き込もうとしていると考えられます。SFをよく読む人にとってはこのくらいがちょうどいいのかもしれませんが、私には分かりにくく感じました。

 あらすじを見る限り、ちょっと設定が複雑になっているような気がします。ただでさえ説明が多いSFの設定を複雑にすると、複雑×複雑でなかなか説明が難しくなり、読みづらくなってしまいます。この辺がSF小説の難しさでしょうか。

 なかなか書き出しでは難しいと思いますが、説明先行よりもまずはストーリーをがっつり書いてほしいと感じました。ただ、SF苦手なのであまり参考にならないと思いますが……

10-3-7 ネアンデルタールの娘達 ~独裁者の妄念を継ぎし者へ~

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 最近目立ち始めた女性を調べた結果、クローンであり元の遺伝子がネアンデルタール人であったという事実から始まるSF……に該当するでしょうか。

 クローンの話は珍しいとは言えないですが、元がネアンデルタール人というのがおもしろいと思いました。何故ネアンデルタール人なのか、その遺伝子を使うとどうなるのかというのは非常に興味が持てます。

 全体的に説明多めになっていますが、前半地の文がずらりと並んでいて読みづらさを感じました。後半セリフを交えて読みやすくなっていることでそれが顕著になっている気がします。

 書き出しはクローンに囲まれて主人公がピンチになっているところで終わっています。さて……一体どうなるのでしょうか。

10-3-8 全能神は苦労神~ある世界が邪神に弄られていた件~

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 あらゆる世界を管理している「全能神」の苦悩を描いたファンタジー。

 異世界ものだとそこに誘導するための神に近い存在があったりしますが、当作品は「全能神」、あらゆる世界を統べる神を主役としています。異世界もので神様が主役というのも珍しいと思います。

 見る範囲が非常に広く、それぞれの世界で担当をつけてもトラブルは絶えそうにありません。当作でも邪神が現れて大変なことになっています。神様が主人公ならではの展開だと思いました。

 全世界どんな物語も範囲になり得るため、非常に展開がしやすい設定だと思います。それゆえにどのように終わらせるのか、同時に気になります。

第3会場感想その2へ続く→