2020年8月10日

小説評価シート⑥ JMゴメスさん

投稿者: フィーカス

 評価シート第6回です。

 現在カクヨムでは、高校生並びに同年代の方を対象とした、「カクヨム甲子園」というイベントを行っています。

 高校生限定ということで大人の方は参加できませんが、高校生といえど大人を超えた抜群の筆力を持つ方もいらっしゃるわけです。入賞するには、当然彼らと肩を並べる作品が必要となります。

 今回依頼された方も恐らく高校生だと思われますが、手は抜きません。大人と同様の評価をしていきたいと思います。でないと失礼ですからね。

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↑高校生を対象としたこういう書籍もあります。

JMゴメスさんの小説の評価シート

 今回はJMゴメスさんの「舞い唄」の評価シートを作成しました。

 ※評価シートにはネタバレが含まれています。まずは本文を読んで、どんなところがおもしろいか、改善点は何かを考えてみましょう。

あらすじ

 夢の中で出会った少年に思いを馳せる少女は、いつも夢の中で少年のを追いかけていた。森の中、海の崖、花畑。様々な場所で思いを伝えあう二人。これは、フランスに住む少女ナターシャと、遠くに住む少年デカソの、恋の物語。

当作品の見どころ

 当作品は少女ナターシャと、彼女が思いを寄せる少年デカソの恋の様子を描いた恋愛短編小説である。序盤はナターシャの夢の中での話から始まり、そこから最終的には二人が出会い、結婚するといった流れで話しが展開される。

 見どころは、何といっても美しい情景描写だろう。高校生でこれだけ情景描写が書ける人もそうそういないと思われる。様々な場面を脳裏に浮かべながら、二人の恋の行方を追っていきたい。


文章力 ★★☆☆☆

「文章力」では、主に小説作法や読みやすさ、読者の観点からきちんと情報が伝わるかなどについて評価していきます。

特筆すべき情景描写

 情景描写を苦手としてるひとは多いと思います。私も情景描写はあまり得意ではなく、同じ表現が続いたり、適当な描写になってしまいがちです。

 しかしながら当作品では非常に優れた情景描写により、ファンタジックな世界観を表現できていると思います。

小説作法は守った方がよい

 一方で、小説作法が守られていないというのが非常に目立ちます。

 普通に書くだけであれば、あまり小説作法については細かく指摘しなくても良いかもしれません。後からいくらでも修正ができる物ですし、書いていれば身につくものだと思います。

 ただし、公募に出すからにはその辺は見られるのではないかと思います。同じレベルの作品でも、小説作法が守れている作品と守れていない作品では、守れている作品の方を選ぶでしょう。小説作法は読みやすくするための指標でもありますから、最初は守って書いた方が良いと思います。

 もちろん、あえて小説作法を守らず、なんらかの効果を狙うテクニックもあります。私も最初、一字下げをしていないのは何かしら効果を狙ったものだと考えたのですが、三点リーダーがうまく使えていない、「!」「?」の後に空白が無いなどがあり、単に小説作法が守れていないだけど判断しました。

 このように、小説作法が守れていないと、「書きなれていない」という印象がありますし、そういったところで引っかかって内容が入ってこないという点で損をすることがあります。

総評:情景描写は素晴らしいが、他が足を引っ張っている

 特筆すべきすばらしい情景描写の一方で、その他の文章が足を引っ張っており、書きなれていない感じが否めませんでした。

 他にも、よく分からないところでセリフの改行があったり、「黎明時」を多用していたりと気になる点が多く、それゆえにストーリーが頭に入ってこない可能性があります。こういったことは、数をこなすことで改善されていくと思います。

 以上のことから、文章力については5段階中「2」と評価させていただきました。ただ、高校生でこれだけの文章が書けるひとはそんなにいないのではないでしょうか。


構成力 ★★★☆☆

「構成力」では、主にストーリーの流れについて評価をしていきます。

ファンタジックな恋愛ストーリー

 当作品は以下のような構成がされています。

  • 夢の中の出会い(ナターシャ)
  • 夢の中の出会い(デカソ)
  • 現実での出会い、プロポーズ
  • 結婚、結婚後のストーリー

 序盤の夢の中の描写は、ファンタジックな情景描写と相まって読者の想像力を掻きたてる内容となっています。小説作法の問題はありますが、この部分については評価は高いのではないでしょうか。

1話が長く構成難

 紙の本であれば、1話がどのくらい、ということはあまり気にしなくても良いと思いますが、ネット小説では1話ごとの文字数が読みやすさに直結します。

 これは個人差が大きいと思いますが、当作品では1話が5000文字を超えているため、個人的に「長い」と感じました。特にいくつか場面が切り替わるところがあったため、半分くらいで区切った方が良かったかもしれません。

結婚後の話は必要だったのか?

 これは私個人的な意見となりますが、恋愛小説において、その多くは「二人がどうなるかの結末」がゴールとなります。言ってしまえば、二人が結ばれたらそのほとんどは終わりと言っても過言ではないと思います(もちろんそうではない場合も多分にあります)。

 当作品は結婚後の話をしっかりと書いていますが、ここは必要だったのかが疑問です。その分を、二人が出会うまでの過程にまわした方が、恋愛小説らしくなったのではないかと思います。

 結婚後の生活を描くにしても、その後の夫婦間のピンチであったり、子どもが生まれたり、老後でどちらかが亡くなるまで書いたり、そういったところで「結ばれてよかった」という感情以外の感情を揺さぶる話を書くと良かったのではないかと思います。

総評:恋愛小説としては少し中途半端

 序盤のファンタジックな展開は良かったのですが、恋愛小説としてはどうにも中途半端に感じました。

 せっかくの情景描写という武器がありますので、二人が出会うまでの過程をしっかり書き、結ばれてしっかり終える、といった形を取った方がより恋愛小説らしくなったのではないかと思います。

 以上の観点より、構成力については5段階中「3」と評価させていただきました。このへんは私の個人的な意見もありますので、参考程度にしていただけたらと思います。


キャラクター ★★★☆☆

「キャラクター」では、登場人物の魅力、設定について評価していきます。

キャラクター設定はまずまず

 当作品ではナターシャとデカソという二人のキャラクターが中心となりますが、設定としては悪くないと思います。

 個性があるかと言われれば疑問はありますが、二人がお互いのことをどう思っているかが重要ですし、思いの強さがキャラクターに出ているため、特に登場人物に関する細かい設定は重要ではないと考えられます。

とはいえキャラクターの深堀はほしいところ

 デカソのキャラクターについてはともかく、ナターシャについては序盤からもう少し深堀しても良かったのではないかと思います。もちろん序盤にある夢の中の描写でもある程度彼女のキャラクターは分かるのですが、例えば現実世界で第三者に外見や性格を評価してもらうなど、序盤の深堀をすることによってキャラクターの魅力が増すのではないかと思います。

総評:キャラクター勝負ではないとはいえ……

 恋愛小説においてもキャラクター設定はある程度重要ですが、二人の気持ちがどう動くかが大切になってくるため、そこまで細かい設定は求めなくても良いかもしれません。とはいえ、もう少しキャラクターの深堀をしても良かったのではないかと思います。

 以上の観点から、キャラクターの評価については、5段階中「3」とさせていただきました。無理に設定を付けたす必要はないですが、よりキャラクターの魅力を引き出すことは出来たと思います。


オリジナリティ ★★☆☆☆

「オリジナリティ」では、他の同系列の作品とどのくらい差別化できているかを評価します。

序盤のストーリーはグッド

 夢の中で好きな人を追いかけるシーン、というものはそんなに珍しいものではないですが、筆者の独特な世界観によって、オリジナリティ高い構成になっていると思います。

どうしても見たことのある流れに見える

 恋愛というと、大体流れが決まってしまうため、あとはゴールへの持って行き方、見せ方の勝負になります。そう考えた時に、当作品の見せ方は(情景描写でカバーしているとはいえ)なんとなくどこかで見たような平凡な印象を受けます。

 もちろん完全オリジナルはほぼ不可能ですし、どこかで見たことがあるような展開になってしまうのは仕方ないことです。ただ、見せ方には工夫の余地があるように思えました。

総評:恋愛小説のなかでも埋もれてしまう可能性あり

 独特な世界観があるとはいえ、やはりそれだけでは他の作品に埋もれてしまう気がします。キャラクターに何か特別な属性があるわけでもなく、特殊な恋愛方法でもないため、そういった点では他の作品にインパクトで負けてしまう可能性があります。

 王道の流れで行くためには、もっと文章力を高める必要があると思います。高い構成力や文章力があれば、特別なことをせずとも入賞できると思いますが、そうではないのであればやはりオリジナリティの高い設定が一つ必要ではない以下と思いました。

 以上の観点より、オリジナリティの評価については5段階中「2」とさせていただきました。是非とも次回は自分にしか思いつかないアイデアで勝負してもらいたいと思います。

総合評価 ★★☆☆☆

 以上の評価をまとめると、私の評価は以下の通りになります。


文章力 ★★☆☆☆
構成力 ★★★☆☆
キャラクター ★★★☆☆
オリジナリティ ★★☆☆☆
総合評価 ★★☆☆☆

 情景描写は目を見張るものがありますが、その他の点については特筆すべき点がなく、「書きなれていない」という印象でした。また、公募に出す作品としてはあまりレベルが高くないという印象でした。

 当作品の問題点は、作者の実力というのもありますが、公募において「自作品の外伝を出した」という点にあると考えます。というのも、外伝やスピンオフは元の作品を知っている前提で読むことが多くなり、たとえ単体で楽しめるように書いたとしても、どうしても元作品の知識が邪魔をして説明不足になりがちです。

 また、2万文字以内というのは簡単そうで意外とまとめづらく、計画的に書かなければあっという間に文字数が足りなくなってしまいます。当作品では逆に文字数が余ってしまったと思いますが、その場合はもっと掘り下げるべき要素があったと考えられます。

 以上の観点から、総合評価は5段階中「2」とさせていただきました。ただ、恐らく書き始めたばかりだと思いますので、これからの伸びしろは十分にあると思います。  


改善した方がよいと思う点

 ここでは、私が「こうした方がいいのでは?」「こうしたら読んでもらえるのでは?」と考えたことを書いていきます。

小説作法を守ってみる

 まずは基本的なこととして、小説作法に沿った書き方に修正した方が良いでしょう。

 文章作法については調べればいくらでも出てきますし、当ブログでも紹介していますので、参考にしてみてください。

 文章作法はいろいろと意見があって、「これは守らなくても良い」みたいな話もありますが、私は最初のうちは基本的な小説作法を守って書いた方が良いと思います。というのも、小説作法は昔の人が作りだした「読みやすくする方法」だと考えるからです。

 もちろん、その小説作法の経緯を考えると現在のネット小説ではそぐわないものもあるかと思いますが、まずはマネしてみるのが一番だと思います。それだけでも読みやすくなり、書きなれていない印象が減るのではないかと思います。

キャラクターの深堀を試みる

 キャラクターの心情が出ているため、このままでも十分と言えますが、もう少しキャラクターについて深堀をしても良いかと思います。

 文字数的に厳しいのは分かりますが、余計なエピソードを削ることで、もっとキャラクターの特徴を示す描写ができるのではないかと考えられます。


ターゲット層と主戦場は?

 ここでは、どんな人を読者のターゲットとし、どういった場所で高評価が得られそうかを分析していきます。

10代から20代がターゲット

 比較的平易な表現が多く、感受性が豊かな10代から20代に需要がありそうな文体だと考えられます。

カクヨムとの相性はいまいちか

 恋愛小説で勝負するのは悪くないですが、カクヨムだと他のジャンルが強いと考えられるため、相性はいまいちだと考えられます。

 例えば魔法のiランドやエブリスタ等、純文学方面が強いところもあるので、そういったところで勝負してみるのも良いかもしれません。

作者の今後の課題

数をこなそう

 物語の構成の仕方、文章力は数をこなすことで身についてきます。短編で良いのでどんどん作品を作り、他の人に評価してもらいましょう。

 同時に、いろんな作品に目を通すのも忘れないようにすべきでしょう。趣味で書くのであればそのような必要はありませんが、今後も公募に出す作品を作るのであれば、インプットとアウトプット、どちらも重要になります。

 何をすればいいか分からないのであれば、まずは本を読むことから始めると良いと思います。また、いろんなことにチャレンジすることで、新しいアイデアがひらめくかもしれません。

戦場を考える

 自分が得意なジャンルを考え、戦う場所を決めましょう。

 もちろんそのままカクヨムで書き続けてもいいのですが、カクヨムの公募に挑戦するならば通りやすいジャンルや作品を研究する必要があります。

 公募を考えるならば、他にも戦える場所があると思います。特に「常家描写」という大きな武器がありますから、それを活かせるところに応募すれば、通る可能性は十分あるでしょう。

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