2020年8月9日

小説評価シート⑤ 斉藤タミヤさん

投稿者: フィーカス

 評価シート第5回です。

 私は別に下読み経験があるとか審査ことがあるとかがないので素人ですが、評価シートは「有料になってもほしい人がいる」と評価されています。ありがたいことです。

 このシート自体いくらの価値があるのか、と値段設定することは難しいですが、それなりに時間をかけて作っているため、無反応なのはやっぱり悲しいです。せめて「こういう評価された!」とか「こんなの作ってもらった!」とか、何かしら反応があればうれしいです。アクセス数が増えて広告がいっぱいクリックされるともっと嬉しいですが(

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↑関係ないですがこういうのあるんですね

斉藤タミヤさんの小説の評価シート

 今回は斉藤タミヤさんの「最競クインテットは最果ての街を往く」の評価シートを作成しました。

 ※評価シートにはネタバレが含まれています。まずは本文を読んで、どんなところがおもしろいか、改善点は何かを考えてみると良いでしょう。

あらすじ

 突如襲った「大雷」で壊滅した大陸最北端のリゾート地、港町コルヒデで、「魔機《マキナ・アルガ》」に襲われた少年レイル・レゴリオは、助けてもらったブラット・ヴェイツと名乗る男に、「凶戦士の眼」と呼ばれる道具を右目に埋め込まれてしまう。そのまま気絶したレイルは、「革命王の手」という組織の長を務めるアルマという女性に連れられ、そのまま「革命王の手」の一員となる。「革命王の手」の目的はコルヒデの壊滅問題の調査であり、その中でレイルに「凶戦士の眼」を埋め込んだブラッドの名が挙げられる。「革命王の手」のメンバーはククリの刀の使い手イザク・ルルノア、戦斧使いで甲冑に身を包んだダール・ゼフォン、可憐な姿ながらも体術を得意とするリゼ・リナブル、そしてリーダーのアルマ。

 彼ら5人、それぞれの目的を胸に、調査のため、そしてブラッド・ヴェイツの討伐のため、壊滅した港町コルヒデに向かうことになった。

当作品の見どころ

 当作品は主要キャラクター5人の行動と戦闘シーンをメインとした、アクションシーンが多めのバトル物となっている。また、最初はぎくしゃくしていた組織のメンバー同士の絆についても描かれている。

 見どころは、やはりメインといってもよい戦闘シーンだろう。特殊な能力はあまり使わないものの、多数の魔機との戦闘シーンは読み応えがある。これから戦闘シーンを書きたいと思っている人には、見本になるかもしれない。また、物語が進むにつれて明かされていく真相についても注目したい点である。


文章力 ★★★★☆

「文章力」では、主に小説作法や読みやすさ、読者の観点からきちんと情報が伝わるかなどについて評価していきます。

難しい表現や漢字が多いものの、比較的読みやすい文体

 当作品は三人称で書かれていて、様々なキャラクターの視点から物語を追う形となっています。視点変更はそれなりにあるものの、まったく読みづらさは感じませんでした。

 読みが難しい漢字が多いように思えましたが、文脈からある程度予測できる程度のものであり、さして気にするほどのものではないと思いました。

特に戦闘シーンの描写力は高い

 見どころにも書きましたが、当作品のメインともいえる戦闘シーンはわかりやすく、迫力があるように書けていると思いました。私は戦闘シーンが苦手なのですが、容易に戦闘シーンを想像することができ、それぞれのキャラクターの特徴が十分活かせていると思いました。

描写ではなくただの説明になっている点が目立つ

 一方で、地の文での説明が多いという印象がありました。地の文で説明することは別に悪いことではないですが、基本的に「描写」することが小説では大切となっています。当作品では描写で表現できることをわざわざ地の文で説明している点が目立つため、その点は改良すべきだと思います。

 例えば「不可視の壁」で退路を断たれたことを知った後のレイルとイザクの様子について、「それはこの危険な街からの退路が断たれたことを意味する。しかしそんな現実を突きつけられても、二人はそれぞれ別の理由から動揺することはしなかった。レイルは楽観的な性格故に、イザクは場慣れしているが故にである。」とありますが、ここは説明ではなく描写でその様子を書いた方が良いでしょう。

 例えば楽観的なレイルであれば、「どうせ戻る気なんてないんだし、さっさとブラッドのやつをぶったおしに行こうぜ!」と軽い気持ちで話したり、離れしているイザクであれば「ブラッドの仕業だろう。となれば、奴を倒せばこの壁も消えるはずだ」と冷静に対処法を考えたりすると、わざわざ「楽観的」「場慣れしてる」と説明しなくてもキャラクターを引き立たせることができると思います。

総評:説明になりがちな点を除けば文章力は高め

 全体的な文章力は高く、戦闘シーンは特筆すべき点であると考えています。

 ただ、文章力が高いゆえに説明的になりがちなのは目立ちます。一次審査は内容が面白いとか、ある程度文章力が高いとか、そういったところで通過することができると思いますが、二次審査以降はこういった描写力ができているかできていないかは大きな差になるのではないかと思います。

 以上のことから、文章力については5段階中「4」と評価させていただきました。説明的な文章をきっちり「描写」することで、さらに評価が高くなると思います。


構成力 ★★★★☆

「構成力」では、主にストーリーの流れについて評価をしていきます。

きっちり書かれている王道ストーリー

 当作品は以下のような構成がされています。

  • 登場人物、敵キャラクターの紹介
  • 主要メンバーとの出会い、紹介
  • メンバーや組織の目的説明
  • 主要都市への調査、戦闘
  • 主要敵との戦闘、謎や真相の解明
  • エピローグ

 序盤からラスボスが出てくるタイプで、主人公の目的もこのラスボスを倒すことになります。物語でやりたいことを序盤でスムーズに説明されており、読者は物語の世界観にスムーズに入ることができる構成になっていると思います。

 流れとしては王道なのですが、きっちりと基本が抑えられている点が良いと思います。

伏線回収や真相解明方法がやや雑

 物語の流れとしてはきれいな流れになっていて、主人公たちの目的も一貫性があるため、安心して読み進めることができると思います。

 ただ、私が感じたこととして、伏線の回収や真相の解明方法がやや雑な印象を受けました。

 例えば「イザクが女である」というのは、序盤から読者もうすうす感づいていることですし、最後の最後で女であることを明かすのはあまり驚きがありません。

 読者が感づいていそうなことは早めに明かしてしまった方が、物語の広がりが生まれる可能性があります。例えば「イザクが女である」ということを途中で明かしてしまえば、「アルマが本命だけどリゼも気になる、しかもあんだけ絆を深めたイザクが女となれば意識せざるを得ない。あーどうしよう!」というレイルの葛藤も描くことができます。鈍感系主人公と違って、レイルはスケベ心がある主人公ですし、面白くなるのではないでしょうか。

 真相解明についても、残り文字数が少なくなって一気に始まりましたし、もう少し丁寧でも良かったのではないかと思います。

細かいところで構成や設定に疑問点が残る

 全体としてのバランスはとれていますが、何となく「書きたいからこのエピソードを書く」といった、行き当たりばったりな印象を受けるところがありました。

 たとえばリゼとダールが突然戦い始めたのはよく分かりませんでした。説明的な文章が多い点についても、「書きたいからここで書いた」という印象が残ります。

 また、「殺し合いはご法度」というルール(?)も、わざわざそこに注意を向ける理由が無いように思えました。この辺はその設定を活かした話を入れると良かったのではないでしょうか。目玉を集める目的もいつの間にか消えてますし。

総評:構成は良いが丁寧な伏線回収を

 最初から最後まで一貫したストーリーで、しっかりと構成が練られている印象がありました。

 ただ、せっかく全体としてはきちんとしたストーリー運びになっているのに、伏線回収のタイミングや方法についてはもったいないと思いました。このへんをうまく構成できると、高い評価が得られるのではないかと思います。

 以上の観点より、構成力については5段階中「4」と評価させていただきました。伏線回収のタイミング等はいろんな小説を読んだり、プロットをしっかり組んだりすることで身につくのではないかと思います。


キャラクター ★★★★★

「キャラクター」では、登場人物の魅力、設定について評価していきます。

全体的にキャラクターの設定は高評価

 主要キャラクターであるレイル、マルス、イザク、リゼ、ダール、並びに敵キャラクターであるブラッドの設定、主な戦闘相手である魔機の設定については非常によくできていると思います。

 それぞれに目的や思惑があり、外見の設定だけでなく内面でも特徴がよくでていて、とても魅力的なキャラクターになっていると思いました。ボスキャラクターもおおよそ私利私欲のために戦う利己的なブラッド、納得のいく死を求める実質ラスボスのカルキとタイプが違う敵キャラクターが作られており、それぞれ魅力のある設定となっていると思います。

もう少しキャラ同士の絡みが欲しかった

 個人的な感想になりますが、キャラ同士の深い絡みがレイルとイザクの組み合わせに偏っており、その他がほとんど戦闘シーンになっているため、もう少しキャラ同士の絡みが欲しいと思いました。

 なぜかというと、レイルを他のメンバーが信頼する要素が少ないと感じたからです。イザクはレイルに付きっ切り、リゼはイザクと手合わせしているため信頼感はそれなりにあると思いますが、ダールは絡みが少なく、レイルとも長期間離れていたため、信頼する要素があまりないのではないかと思います。もちろん同行後は十分活躍する場があり、最終的に信頼に足る人物に成長したと思いますが、道中でもう少し絡みがあってもよいかなと思いました。

総評:全体的に高評価

 個人的に気になる点はありますが、キャラクターについてはよくできてると思います。若干イザクの活躍が多くてレイルの主人公感が薄い気がしますが、その点は好き好きだと思います。

 以上の観点より、キャラクターの評価については、5段階中「5」とさせていただきました。文章量ゆえにもう少し深堀してほしいところではあると思いますが、キャラクターについては申し分ないと思います。


オリジナリティ ★★★★☆

「オリジナリティ」では、他の同系列の作品とどのくらい差別化できているかを評価します。

基本を押さえた王道ストーリー

 当作品は基本的な流れがしっかり抑えられている、王道的なストーリーとなっています。

 登場人物の目的、戦闘シーン、真相解明と、全体としてきれいにまとめられています。全体の流れをしっかり決めたうえで書かれているという印象があります。

オリジナル要素はあるものの……

 当作品では最初から機械(魔機)と戦闘する点や解明された真相についてのオリジナリティは高いと思います。

 ただ、戦闘シーンが比較的丁寧に書かれているという点以外で突き抜けた要素がないため、オリジナリティが高い作品と比べると印象が弱くなるのではないかという懸念があります。

総評:インパクトがやや薄いか

 全体的な設定はしっかりしていますが、やはり「インパクトがあるか」と聞かれると「NO」と答えざるを得ません。今の小説、ラノベではやはり「この小説はこれ!」といったインパクト、オリジナリティがないと勝ち上がるのは難しいので、そういった武器になるような設定が欲しいと思いました。

 以上の観点より、オリジナリティの評価については5段階中「4」とさせていただきました。インパクトが無い作品が悪いわけではないですが、何となく他の作品に埋もれそうだという印象を受けます。

総合評価 ★★★★☆

 以上の評価をまとめると、私の評価は以下の通りになります。


文章力 ★★★★☆
構成力 ★★★★☆
キャラクター ★★★★★
オリジナリティ ★★★★☆
総合評価 ★★★★☆

 戦闘シーンに命を賭けているといってもいいほど戦闘シーンの描写は目を見張るものがあり、キャラクターも申し分ないと思います。ただ、全体的に「何か物足りない」「何か惜しい」という印象を受けました。

 個人的には他の作品に負けないインパクトだったり、説明的な文章だったりがそういう「足りない点」だと思いますが、それだけではないような気がします。

 恐らくですが、10万文字前後にまとめようとして、文字数が足りなくなってしまったのではないかと思います。あるいは、終わらせるのを急いだか。

 やはり入賞する作品には、普通の作品にはない「オーラ」がある気がしますが、当作品は「弱い」という印象です。それでも高い文章力を評価して、総合評価は5段階中「4」とさせていただきました。  


改善した方がよいと思う点

 ここでは、私が「こうした方がいいのでは?」「こうしたら読んでもらえるのでは?」と考えたことを書いていきます。

「説明過多の説明不足」を解消する

 文章力の項目で触れましたが、地の文において「説明的」な印象はどうしてもぬぐえません。全体的な流れはよくできていても、ところどころで「これを説明したい」という気持ちが見え隠れしてしまいます。

 特に文章力が高い人は、こういった「説明的な文章」が目につきやすくなります。そのため、「描写」できるところは説明ではなく描写をするようにしましょう。

 また、設定はいくらでも作っていいと思いますが、それをすべて本文に取り入れる必要はありません。必要ない設定や途中で無意味なものになっている設定が気になりますので、そういったところを削り、力を入れるべきところを詳しく描写するようにすると良いと思います。

もっと分量を増やしてもよいのでは

 せっかくこれだけの設定があるのに、10万文字で終わっていい作品ではない気がします。もちろん長ければいい話ではないですが、広げられるところはたくさんあると思います。今のラノベだと10万文字だとやや短い気がしますので、もう少し話を広げたり、別のイベントを作ったりして、どんどん物語を進めていっても良かったのではないかと思います。


ターゲット層と主戦場は?

 ここでは、どんな人を読者のターゲットとし、どういった場所で高評価が得られそうかを分析していきます。

ラノベ層の20代から30代がターゲットか

 難しい表現や漢字が多めな一方、テンポがよく進むラノベの王道的なストーリーとなっています。特に戦闘シーンが好きなひとにはお勧めできるでしょう。文体的に20代から30代がターゲットになると思います。応募するところの募集要項が「10代が楽しめる作品」となっているようですが、もし10代をターゲットとするならば、もう少し平易な表現を使ったり、難しい漢字はルビを振ったりひらがなにしたりした方がよいと思いいます。

公募の一次審査通過実績あり。しかし二次以降はどうか?

 当作品は公募の一次審査の通過実績があるとのことで、公募に適した作品であることは間違いないでしょう。

 ただ、二次審査以降に通るためには、このままだと力不足ではないかと思います。特にバトルがある作品は応募が殺到すると考えられるため、バトルシーン以外の差別化が必要になってきます。

作者の今後の課題

インパクトのある題材で勝負

 基本的な文章力があり、しっかりとした全体構成ができるため、あとはインパクトがあるアイデアを持てるかが今後の課題となるのではないかと思います。

 どうしてもネット小説ではインパクトに欠ける作品ははじかれやすくなります。「この小説といえばこれ!」といえるような題材を探してみると良いと思います。そのためには、日ごろからいろんなものに挑戦し、アンテナを張り巡らせることが重要です。

 一つ良いアイデアがあれば、全体のストーリーを作ることはできるはずです。他の人からアイデアを貰うというのも良いかもしれません。

構成力を磨く

 私がもったいないと思っていることの一つに、文章の構成力があります。全体としてはまとまっているけれど、細かいところで説明的になっている、引っかかるところがあるというのはもったいない気がします。公募で入賞するような作品やヒット作を読んで、どういう構成になっているか勉強すると良いと思います。

 もちろん構成の方法に合う合わないがありますので、いろんな作品を読むことをおすすめします。

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