小説評価シート① あらやしきさん
編集経験がある人や公募の下読み経験がある人は、他の人の作品に対して客観的に評価する能力が高く、おもしろさを判断できるしっかりとした基準を持っているといえるでしょう。
ただ、小説を書く側としても、客観的に小説の評価ができる感性はあった方が良いと思います。というのも、公募に応募するにしても通るためには他の人の目にかなわなければなりませんし、投稿サイトに投稿するにしても読んでもらうために「他の人はどう考えるか?」ということを考えなければ読んでもらえなくなります。
ということで、そういった客観的な視点を養う(?)ために、評価シートというものを作ってみました。私が読んだ小説を、できるだけ客観的に評価しようという試みです。
もちろんきちんとした評価シートを作るようなプロの編集者のようなクオリティにはなりませんが、参考程度になれば、と思います。
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なお、今回は1名募集した結果、あらやしきさんの小説について、評価シートを作ることにしました。
あらやしきさんの小説の評価シート
今回はあらやしきさんの「ドッペルアーツ~魔術師彼女と超人彼氏~」の評価シートを作成しました。評価シートを見る前に、作品を読んで皆さんならどういう評価をするか、どんな点がよかったか、改善点があるとすればどこか、といったことを考えてみてください。
※以下ネタバレ要素を含むため、読んでいない人は先に読んでから先に進んだ方がよいと思います。
あらすじ
ごく普通の
戦いに巻き込んだ非礼を詫び、今後の戦いにかかわらないよう忠告する十魔子だが、健作は友人である
当作品の見どころ
当作品はいわゆる「ボーイミーツガール」や「異能力もの」と呼ばれる作品の一つであり、その王道的展開を踏襲した形となっている。大きな見どころは「分霊人」である健作や十魔子らと、「悪魔」であるメフィストフェレスや彼が操る怪物との戦闘だが、戦闘を通して主人公である健作やヒロインである十魔子の成長、関係の成熟、周囲の人間とのやり取りも見どころの一つと言えるだろう。
また、序盤から大きな山場がいくつもある点、絶妙に施された伏線にも注目したい。
文章力 ★★★★☆
「文章力」では、主に小説作法や読みやすさ、読者の観点からきちんと情報が伝わるかなどについて評価していきます。
ライトノベルであれば、ある程度内容が面白ければそこまでの文章力は必要ないように思えますが、面白い小説はやはり「読ませる力」があります。いくら面白い内容でも、相手に伝わらなければ意味が無いため、最低限の文章力は必要と言えるでしょう。
小説作法:特に問題なし
ネット小説で「小説作法」のことを言うと、「別に好きに書けばいいじゃないか」と言う人が多くないと思います。しかしながら、小説作法ができていないと、やはり書きなれていないという印象を持たれてしまいます。また、小説作法が気になる人にとっては、そこで引っかかってしまい、内容まで頭に入らないという状況になってしまうかもしれません。
当作品は小説作法が守れていないところはあまり見当たらず、特に問題なく読める作品となっていると思われます。
読みやすさ:難しい漢字の多用が気になる
極端に難しい表現を用いず、分かりやすい言葉で書かれているため、比較的読みやすい文章だと思います。
気になる点があるとすれば、読みが難しい漢字がやや多いような気がします。それらにルビが振られていないため、読者はそこで引っかかってしまうかもしれません。
とはいえ個人差の範囲だと思いますので、そこまで気にする必要はないと考えられます。
気になる点:体言止めがやや多い
読んでいて感じたのは、体言止めがやや多いという点です。特に戦闘シーンや動きが多いシーンでは多めに感じます。体言止めはスピード感を出したり、リズムを整えたりする役割を果たしますが、当作品ではあまり必要性を感じないところまで体言止めが使われており、逆にテンポが悪くなっているように思われます。
とはいえ、こちらも個人差のレベルではあると思いますし、体言止めの多少については様々な意見がありますので、そこまで気にする必要はないかもしれません。
総評:比較的読みやすく、高い文章力
上記のような気になる点はありますが、比較的サクサクと読め、ストレスを感じない読み口になっていると思います。また、最低限の状況も把握できるような構成になっているため、読者は安心して読むことができると思います。
とはいえ、背景描写などはもっと細かくかけると思いますし、主人公である健作の外見の描写が少ないなど、人物の描写も工夫の余地があると思います。従って、今回は文章力については5段階中の「4」と評価しました。
構成力 ★★★☆☆
「構成力」では、主にストーリーの流れについて評価をしていきます。話の内容面白く、高い文章力を持っていたとしても、構成がめちゃくちゃだと読者の頭の中が混乱してしまったり、ついていけなくなったりしてしまいます。
異能力物の王道的な流れ
当作品は、いわゆる「異能力物」と呼ばれる作品の王道的な展開(悪く言えばテンプレート)となっています。つまり、
- 一般的な学園の風景を描く
- 主人公が事件に巻き込まれる
- 主人公とヒロインの出会い
- 主人公が異能力を得る
- 事情や物語の背景を説明する
- 主人公とヒロインの共闘
といった流れが自然とできています。
テンプレートはともいえば悪く見られがちですが、逆に言えばこのような流れがしっかりできていない作品は読者には読みなれないですし、話の展開が分かりづらくなります。少しずつステップを踏んで「この作品がどのような話なのか」を自然な流れで説明することは、意外と難しいことです。
当作品ではこの流れを丁寧にくみ取っているため、読者は自然と物語の世界に入り込むことができると思います。
もっとメリハリが欲しい
とはいえ、当作品は大きな事件をどんどん出していく形式になっており、山場が連続している形になっています。特に序盤は読者が世界観になじんでいないことが多く、そこで大きな事件を出してもいまいち理解が追い付かない、といったことになりかねません。
例えば最初は小物を出してさっさと能力で片付ける、それを繰り返すうちに真相に近づけ、大きな戦闘に持って行く、やった方が、大きな戦闘で緊張感が持てるのではないかと思います。
総評:もっと物語の構成に工夫を
序盤の流れはできているものの、物語の構成については工夫の余地がたくさんあると思います。流れを見る限り、作者はプロットを組まず、能力を軸に次々と話を考える、というタイプだと考えられます。ただ、「メフィストフェレス」という大ボスが見えている以上、最終決戦までの大まかな流れは作った方が良いのではないかと思います。
以上の観点より、構成力については5段階中「3」と評価させていただきました。
キャラクター ★★★★☆
「キャラクター」では、登場人物の魅力、設定について評価していきます。
ライトノベルに限らず、文芸作品でも登場人物の設定は命とも言えます。ライトノベルにおいてはもはや「キャラクターがすべて」言い切ってもよいという意見もあると思います。物語を引きたてる役割、それがキャラクターです。
とてもわかりやすい敵キャラ、ヒロイン
「メフィストフェレス」という敵キャラ、「竜見十魔子」というヒロインのキャラクター設定については、とてもわかりやすくなっていると思います。
敵キャラクターについては主に「自分勝手な欲望を持って行動する」タイプや、「主人公たちとは相いれない正義で動く」タイプなどがありますが、メフィストフェレスはとてもわかりやすい前者のタイプとなっています。かなり性格が悪く、挑発するような態度を取るのも、主人公を応援したくなる要因となっているため、魅力的な敵キャラクターとなっていると思います。
ヒロインの十魔子についても、過去の深堀や戦闘での性格が明確化していることにより、魅力的なキャラクターになっていると思いました。他にも「しゃべる木」など、サブキャラクターにも細かな設定がある点がよいと思います。
対して影がやや薄い主人公
敵キャラクターやヒロインに対して、主人公である健作のキャラクターが弱く感じました。最初に読んだとき、健作と博之のどちらが主人公かということが分かりにくかったです。最初に健作のことを少しだけ長く書くだけでも、読んだ人の印象が変わってくるのではないでしょうか。
まだ完結していないため、これから主人公の深堀があると思われますが、現在のところ他のキャラクターに比べて影が薄いように思えます。
総評:もっと主人公の魅力を
比較的主人公以外のキャラクター設定がしっかりできている反面、主人公の設定がややあいまいというか、分かりにくい印象がありました。ヒキガエルについても、「なんでカエル?」というような疑問点が出てくる人がいるのではないかと思います。今後の話で、より主人公の魅力を出してもらいたいところです。
以上の観点より、キャラクターの評価については、5段階中「4」とさせていただきました。
オリジナリティ ★★☆☆☆
「オリジナリティ」では、他の同系列の作品とどのくらい差別化できているかを評価します。
今やネット小説は同じような作品が乱立しており、「これ」といった「この小説でしか読めない」しっかりと軸がなければ、読んでもらえなくなっています。極端に言えば、文章力や構成力がいまいちでも、とがった一点があれば読んでもらえる可能性が非常に高くなります。
「何でこんな変な小説がランキング上位なの?」と思うような作品もあると思いますが、きっと非常に高いオリジナリティがあるからこそ、読まれているといえるでしょう。
ハイペースなスピード感ある展開
異能力物といえば、最初に説明をがりがり書いてしまいがちで、なかなか序盤のストーリーが進まず、最初の戦闘シーンで既に大量の文字数を消費していた……ということが起こりやすいですが、必要な情報を適宜出していき、速い段階で大きな山場を迎えるという構成は、ある意味では特徴的ではないかと思います。
こういった展開を続けることが出来れば、他の作品との差別化ができるのではないかと考えています。
他の異能力ものと何が違うのか?
ここで、私が書いたあらすじを再度読んでみてください。よくよく読んでみると、「あれ、これって他の異能力物と何が違うの?」と思わなかったでしょうか。
確かに「分霊人」という要素はある程度オリジナリティがある設定かもしれませんし、「分霊獣」が「分霊具」となる設定もそれなりに面白い設定だと思います。ただ、同様の設定がないわけではないですし、オリジナリティとしては弱いのではないかと思います。
総評:「この作品の売りは何か?」と聞かれて答えられるか?
当作品では「分霊人」というキーワードを使い、他の作品と差別をしようと試みていますが、中身としては他の異能力物との違いがあまりないのではないかと感じてしまいます。ストーリー展開で差別化することはできますが、せっかくの設定ですから、「この設定でしか出来ない話」を作ってもらいたいと思いました。
以上の観点より、オリジナリティの評価については5段階中「2」とさせていただきました。
総合評価 ★★★☆☆
以上の評価をまとめると、私の評価は以下の通りになります。
文章力 | ★★★★☆ |
構成力 | ★★★☆☆ |
キャラクター | ★★★★☆ |
オリジナリティ | ★★☆☆☆ |
総合評価 | ★★★☆☆ |
小説のクオリティとしては高いレベルにありますが、やはり「これ」といったものがないのが気になるところです。伏線の回収などは得意だと思いますので、最後まで読んだ時に「これはそういう意味だったのか!」「だからこういう設定だったのか!」という驚きを読者に与えてほしいと思います。
改善した方がよいと思う点
ここでは、私が「こうした方がいいのでは?」「こうしたら読んでもらえるのでは?」と考えたことを書いていきます。
アンバランスなタイトル
タイトルを見ると「ドッペルアーツ」という言葉が出てきます。これは作中では「分霊獣」が道具化した「分霊具」というアイテムを意味するのですが、1章ではなかなかその存在が明かされず、最後の段階になるまで主人公は「分霊人」の能力で戦っています。
読者からすると、「ドッペルアーツって何? いつ出てくるの?」という感じになってしまうので、こういったタイトルは早めに回収する(もしくはそれっぽいものをにおわせる)方が良いでしょう。
また、後に「超人彼氏」とありますが、ここまで(読んだ段階まで)健作と十魔子が彼氏彼女の関係になったという記述がありません。あくまで健作が十魔子へ告白したという段階で止まっています。
となると、これは内容を説明しているのではなく、単に「ネタバレ」しているだけと言えます。
男女の恋愛関係は読者が興味を持つ点であり、最後までくっつくのかくっつかないのかドキドキするのも楽しみの一つです。しかし、このタイトルかついつまでも彼氏彼女の関係にならない展開が続いていると、「どうせこの後くっつくんでしょ? いつまで引っ張るんだろう」という気持ちになってしまいます。
内容を端的に示した長文系のタイトルが今の流行ですが、逆になかなかそのタイトルに沿った内容にたどり着かないと、読者はもやもやします。そういったことも考えながらタイトルを考えるか、タイトルに沿った物語進行にした方が良いと思います。
より読みやすい文章への追及を
当作品は比較的読みやすい文章となっていますが、難しい読みへのルビがなく、やや不親切と言えるでしょう。
特に頻繁に出てくるかつキーキャラクターである「蟇蛙」という漢字、所見で読める人はどのくらいいるでしょうか。
もちろん話が進めば「ああ、ヒキガエルね」と思うでしょうが、読めない漢字があるとそこで引っかかってしまいます。
他にも、一つの段落が長すぎる説明や、長い間セリフが続く箇所が見られます。こういったところはいったんどこかで区切ったり、改行したり、現在の状況を挟んだりして、読みやすい工夫をした方が良いでしょう。
早すぎるピークは物語の進行を苦しくさせる
当作品は、序盤から親友だと思っていた人物が実はラスボス(メフィストフェレス)に魂を売っていたという衝撃的な事実が明かされます。ただ、この衝撃というのはかなり大きいもので、物語終盤で明かされるレベルのものです。
このような大きな衝撃を与える事実を最初の方に出してしまうと、それ以降はその衝撃を上回る出来事(もしくはそのような衝撃を与える工夫)が必要となるため、物語の進行が苦しくなります。つまり、後半になると徐々に面白さが無くなっていく可能性が高くなってしまいます。
もちろん、この先もっと面白くさせる展開を考えているならこういった展開も良いですが、こういった切り札は最後まで取っておいた方が話を進めやすいのではないかと思います。
ターゲット層と主戦場は?
ここでは、どんな人を読者のターゲットとし、どういった場所で高評価が得られそうかを分析していきます。
ターゲットはラノベ世代
作者も意識していると思いますが、高校を舞台としているということで、読者層はラノベを読んでいる層、10代後半から20代後半となると考えられます。地の文も、それらのターゲットに合わせた語彙とした方が良いでしょう。
マンガ化でビジュアライズを
当作品では得体のしれないもの、特に黒くてドロドロしたものの描写が多いのですが、文字だけでは表現に限界があるのではないかと思います。
もしも絵心があるならば、マンガにすることでその異様な物体の表現ができますし、「カエルが頭に乗っている」というビジュアルもユニークなものになるのではないかと思います。
あるいは、漫画原作の賞に応募してみるのも良いと思います。ただ、競争率が高いと思われますので、内容はブラッシュアップする必要があるでしょう。
小説の公募の審査通過は難しいか
評価にある通り、文章力やキャラクター面は問題なさそうですが、オリジナリティにおいてはやや弱いという印象を受けます。現在のラノベでは、文章力はもとより、他にはないオリジナリティが求められるため、一点「これ」という目立つ特徴が無いものは通過しにくいと考えられます。
作者の今後の課題
とがった、物語の軸となるアイデアを
文章力はある方だと思いますので、一度読んでもらえればその物語の魅力を伝えることは十分できると思います。
とすれば、足りないのはオリジナリティではないかと思います。構成などは書いているうちに見につきますが、アイデアはいろんな作品を読み、いろんな経験をしていかなければ思いつくものではありません。
そのアイデアというのも、他にはなさそうなとがったものが必要となっています。テンプレートな物語にしても、その中で「この小説はこれに特化している!」というものがあると思います。
難しいことは考えなくても構いません。今回の例であればめちゃくちゃ強いカエルが出てくる話なんかでも良いと思います。
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いかがだったでしょうか。もしかしたら私と違う意見を持ったり、もっと良い意見があったりするかもしれません。
このように、他の人の作品を読んだ感想を文章にしてみるのも、文章を書く勉強になるのではないかと思います。