小説評価シート⑦ 西辻 東さん
評価シート第7回です。
小説を読み続けていると、何となく書いた人の人がらが見えてくる気がしないでしょうか。
その人の性格や生活習慣は意外と文章に出てくるものです。あるいは、たくさん書いてきたかあまり文章を書いていないのかもよく分かります。
「作品と作者は別物」という話もありますが、意外と性格って文章に出てくるものですね。
メ-ル文から性格を見ぬく方法 その人の人間性や本心が、文章のここに出る! 河出書房新社齊藤勇(心理学) / Kawade夢新書【中古】afb 価格:150円 |
↑文章には本性が出るそうで。
西辻 東さんの小説の評価シート
今回は西辻 東さんの「それでも、彼女はオーボエを吹き続ける。」の評価シートを作成しました。
※評価シートにはネタバレが含まれています。まずは本文を読んで、どんなところがおもしろいか、改善点は何かを考えてみましょう。
あらすじ
部活の練習をサボった吹奏楽部の「僕」は、屋上で「彼女」と出会う。「彼女」は「僕」と同じ吹奏楽部であり、担当の楽器も同じオーボエだった。「僕」と「彼女」の、屋上に来た理由。真夏の空の下、二人の青春の一ページが作られる。
当作品の見どころ
当作品は、高校時代の部活動を通して描かれた、青春ストーリーである。後輩の「僕」と先輩の「彼女」が、それぞれどのような理由で部活動に行かず、屋上に向かったのか。その理由と、高校生活でよくある生徒の葛藤を描いた作品となっている。
見どころは、二人の心の動きや葛藤の見せ方だろう。作者自身も高校生であるため、実際に起こり得る高校生の行動や心理状態が細かく描かれている。本人が同じ年代だからこそ描ける作品と言えるだろう。
文章力 ★★★☆☆
「文章力」では、主に小説作法や読みやすさ、読者の観点からきちんと情報が伝わるかなどについて評価していきます。
高校生特有の心理描写
学生時代の心理描写というのは、体験したことがありながらも大人になると忘れてしまい、上手く文章にしづらい物があると思います。
当作品は作者が高校生ということもあり、リアルな高校生の行動や考え方、心理状態が描かれていると思います。
良くも悪くも「高校生が書いた文章」
大人の書く文章、小学生が書く文章、中高生が書く文章は、経験の差もあって違ってきます。もちろん大人の方が丁寧な文章が語彙力の高い文章になりますが、小学生には小学生の、中高生には中高生の良い部分があります。
当作品は、良くも悪くも「高校生が書いた文章だな」という感じがしました。
思い描いた情景や経験、感情をそのまま表現できる点では良い点だと思います。ただ、以下の点で悪い「高校生らしさ」が出てしまっています。
- 持って回った言い回し
- 難しい表現の多用
- 長文のセリフ
例えば「のどが渇いた」と書けばいいのに「口の中が渇いて、脳が水分を過剰に要求しだす」と書いたり、「確認した」でいいのに「確認を求めた」と書いたりといったことです。
難しい言葉を使ったり、何となくカッコイイ言い方をしたりすれば小説家っぽい文章になると考えがちですが、そうではありません。また、難しい言葉を使うことが「語彙力がある」とは言いません。その場面で適切な語句を選び、読者に引っかかりを持たせないようにするのが、文章力の高い人と言えます。
総評:書きなれていないという印象が強い
なんとか頑張って情景描写をしたり、うまくストーリーをつなげているように思えますが、やはり「書きなれていないな」という印象は否めませんでした。
自分の考えた話をアウトプットすることに一生懸命になり、読者側の配慮が書けているように思えます。趣味ならそれでもかまいませんが、公募に出すのであれば読者の姿を思い描き、どうしたら読みやすい文章になるかと考えると良いと思います。
以上のことから、文章力については5段階中「3」と評価させていただきました。丁寧に書くための文章力はあると思いますので、読者のことを考えながら書くとよりよくなると思います。
構成力 ★★★☆☆
「構成力」では、主にストーリーの流れについて評価をしていきます。
起承転結がきちんとしてる
当作品は以下のような構成がされています。
- 起:「僕」と「彼女」の出会い
- 承:お互いの現状確認
- 転:屋上にいる理由
- 結:「僕」が部活に戻ることを決意
短編であり、最初から何を伝えたいかをしっかり考えているからこそでしょうが、短編でも長編でも、このようにしっかりと起承転結(または序破急)を考えることは重要だと思います。
「役割」を考えよう
すべての設定に意味を持たせる必要はありませんが、主題となるものについてはそれなりに役割を持たせた方が良いと考えます。
当作品はタイトルにもある通り、「オーボエ」が主役となっていますが、トランペットやリコーダーといった知名度の高い楽器ではなく「オーボエ」なのでしょうか。
恐らく経験したことがある楽器を主題にしたかったのかもしれませんし、特に役割が無くても問題はありません。ただ、「だからオーボエなのか」と思わせることが出来れば、物語に深みが増すのでしょうか。
例えば、オーボエはオーケストラでは音合わせに使われるそうです。そういった知識を取り入れ、「常にみんなを引っ張って行きたい」といった思いを重ねると、「オーボエ」が主題として引き立つのではないかと思います。
総評:全体的に展開が平坦に感じる
起承転結はできているのですが、全体的に谷や山があまり感じられず、常に平坦な展開が続いているように感じられました。
もちろん「僕」と「彼女」がお互いに屋上にいる理由を語るシーンなどで山場を作ろうとしているというのは感じますが、それでも全体を通してみると「ここが一番主張したいところだ!」というところが弱いように思えます。
もしかしたら実生活で起こったことをもとにしているかもしれませんが、事実は事実、創作は創作です。現実をもとにしたとしても、創作作品として盛り上がりを見せる場面を作った方が良かったと思います。
以上の観点より、構成力については5段階中「3」と評価させていただきました。構成は悪くないのですが、突出した点が無いと感じます。
キャラクター ★★☆☆☆
「キャラクター」では、登場人物の魅力、設定について評価していきます。
心情描写によるキャラクター付け
当作品では、外見というよりも心情を話していくことでキャラクター作りをしています。短編なのでなかなか難しいことですが、当作品は行動や心情描写によってうまくキャラクター付けができていると思います。
名前くらいは付けよう
当作品では終始登場人物を「僕」「彼女」「あなた」「先輩」「後輩」と呼んでおり、明確な名前は出ていません。
物語冒頭から察するに、意図的に名前を付けていないように思えます。ただ、当作品において名前を付けないメリットはあまりないのではないかと思います。特に書いている際に名前が無いのは苦しかったのではないでしょうか。
確かに名前を付けない作品もあります(例:「エーミール」が有名な「少年の日の思い出」など。主人公は「僕」)が、かなりの高等テクニックになると思います。少なくとも「彼女」の方には名前があった方が、読者も感情移入しやすいのではないでしょうか。
総評:「僕」と「彼女」の対比を色濃く書くべき
当作品はキャラクター作品ではないため、特別キャラ付けするような必要はないと思います。
しかしながら、主題が「僕」と「彼女」が屋上にいる理由、部活動に顔を出さない正反対の理由にあることから、この点はもっと強調して良いと思います。
例えば「彼女」側であればもっと目立つ立場だったためにもっと酷いいじめを受けていた、という設定でも良いですし、「僕」側であれば特に努力せずとも県でもトップクラスの実力をもっていた、くらいとがっていた方が説得力もありますし、感情移入しやすいと思います。
以上の観点から、キャラクターの評価については、5段階中「2」とさせていただきました。自分の主張を目立たせたいとしても、それをキャラクターに言わせるためにはキャラクターの魅力を引き立たせる必要があると思います。
オリジナリティ ★★☆☆☆
「オリジナリティ」では、他の同系列の作品とどのくらい差別化できているかを評価します。
これという特徴が見当たらない
題材を分解してみると、「高校生」「屋上」「吹奏楽部」「ボーイミーツガール」といった、「あんまり目新しい物がない」といった印象を受けます。
もちろんこれらをうまく料理し、目新しい作品にすることも出来ると思いますが、当作品はそういったところを目標としているようには思えませんでした。
唯一特徴的なところが「オーボエ」ですが、これも「どの楽器でもよかった」という感じが否めませんでした。この辺でオリジナリティが出せればよかったかなと思います。
総評:主張はあるもののありきたり感が否めない
当作品には、同じ立場の人間でも、過程が違えばその後に取れる行動が異なる、といった主張があります。
しかしながら、物語の展開はそれほど目新しいものではないですし、特徴的な「これ」といったものがありません。情景描写は丁寧に描かれていますが、正直「それだけ」とも思えます。構成力の所でも書きましたが、例えば「オーボエ」をもっと活かす話にする、等の特徴が欲しかったところです。
以上の観点より、オリジナリティの評価については5段階中「2」とさせていただきました。自分の作品を紹介するとき、「ここがおもしろい!」と言えるところを説明できるようにしておきましょう。
総合評価 ★★☆☆☆
以上の評価をまとめると、私の評価は以下の通りになります。
文章力 | ★★★☆☆ |
構成力 | ★★★☆☆ |
キャラクター | ★★☆☆☆ |
オリジナリティ | ★★☆☆☆ |
総合評価 | ★★☆☆☆ |
良くも悪くも「高校生が書いた普通の文章」という印象でした。決して悪くはないのですがこれといった特徴もあまりなく、「普通」といった感じです。
高校の文芸誌などに掲載するなら十分なレベルと言えますが、公募に出すとなると「良くもなく悪くもない作品」というのは評価が高くない傾向にあります。最悪、めちゃくちゃ文章が下手な作品の方が注目が集まるまであります。
特に公募に出すわけでもなく、好きに書きたいのであればこのままでも良いと思いますが、もし「入賞したい」というのであれば、少し読者を意識した方が良いでしょう。文章はそれなりに書けると思いますので、それだけでも違うと思います。
以上の観点から、総合評価は5段階中「2」とさせていただきました。キャラクター、読者の視点、オリジナリティと考えることはたくさんありますが、伸びしろは十分あると思います。
改善した方がよいと思う点
ここでは、私が「こうした方がいいのでは?」「こうしたら読んでもらえるのでは?」と考えたことを書いていきます。
自分で作品の面白さを説明してみる
自分で「この作品はどこが見どころか」「何がおもしろいのか」は説明できるようにしておきましょう。ここが説明できるようになれば、作品のどこに一番力を入れるべきかが分かると思います。つまり、「山場」を作ることができます。
自分で自分の作品の面白さが分かっていないと、作品を面白くすることはできませんし、読んでくれる人も少なくなります。ましてや公募に出すのであれば、「ここがおもしろいんだ!」ということが全面的に出ていなければ、簡単にライバルに負けてしまいます。
公募で勝つためには「突出したものを作る」のが一番早いのですが、そのためには「何がおもしろいのか」を理解する必要があるでしょう。
読者の視点を意識して読みやすい文章を
当作品は「ちょっと小説に書きなれた高校生が書いていそうな文章」に見えます。そこから脱却するためには、やはり読者の視点に立つことが重要でしょう。
読者視点に立つことで、変な言い回しをしなくなったり、レイアウトにこだわったりするようになると思います。「読みやすさは必要ない」という人もいるかもしれませんが、自分の話を最後まで読んでもらうためには、やはり読みやすさは必要だと思います。
ターゲット層と主戦場は?
ここでは、どんな人を読者のターゲットとし、どういった場所で高評価が得られそうかを分析していきます。
若者向けだが30代あたりでも需要がありそう
高校生が主人公ということで、若者向けの作品となっています。しかしながら情景描写などはしっかり書かれており、内容からしても30代くらいもターゲットになりそうだと思います。
文芸向けのコンテストへ
ネット小説ではファンタジーやSF、デスゲームなどが受け入れられやすいですが、文芸向けのコンテストもいくつかあります。
例えばアルファポリスでは青春ストーリーをターゲットとしたコンテストを開催していますので、そういったところへの応募も考えて良いかもしれません。
作者の今後の課題
小説を読み込んで十分なインプットを
個人的には、インプットが足りていないように思えます。いろんな作品を読んで、表現力や言い回しを身に付けると良いでしょう。同時に、読者視点の読みやすさについても考えると良いと思います。
何かに突出した物を作る
全体的に平凡な感じが否めないため、一つ武器を作ると良いと思います。
例えば情景描写でもいいですし、心理描写でも良いです。キャラクターでもいいですし、特異なアイデアでも良いと思います。
例えば私であれば、短編では「意外なオチ」「日常を取り入れた話」を武器としています。このように、「この話なら私に任せろ!」「この描写なら任せろ!」といったものを持つと良いと思います。そうすれば、他が悪くてもその武器を評価される可能性があります。
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