小説評価シート③ 六葉九日さん
評価シートも第3回目となりました。
最近では「感想屋」という人がいて、お金を払うと感想を書いてくれるというサービスをやっているそうです。
ただ、そういうものに頼らずとも、今ではタグで読む小説を募集している人がいますので、そういった人に頼むのも悪くないと思います。
また、自分から小説の感想やレビューを書きに行くのもよいと思います。小説の面白い点を探すことで、自分の小説の良いところ悪いところを見つける練習になりますし、自らの小説のあらすじを的確に書く練習にもなります。さらに、人間には「返報性の原理」というものがあるため、もしかしたらお礼に感想を書いてくれるかもしれません。
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六葉九日さんの小説の評価シート
今回は六葉九日さんの「深海のアナイアレイション」の評価シートを作成しました。
※今回は作者の要望により、本文へのリンクを貼っていません。また、ネタバレに配慮して評価シートを作成しているため、抽象度の高い感想になっています。
あらすじ
十二歳になった魔導士の少年イリーカは、亡くなった師匠の復讐をすべく、この世界では忌み嫌われている「癒し」の力を隠して旅に出る。そんな彼の、成長を描いた、始まりの物語。
当作品の見どころ
当作品は魔導士の少年に焦点を当てたファンタジーであり、身の回りに起こる出来事を通じて成長を感じるタイプの物語である。
見どころは「この先のストーリー」を感じさせる世界観だろう。大長編を思わせる書き出しだが、これはあくまで「読み切り」であり、物語としての決着はつけてある。読み終わった後には、「続きはよ!」と叫びたくなることであろう。
文章力 ★★★★★
「文章力」では、主に小説作法や読みやすさ、読者の観点からきちんと情報が伝わるかなどについて評価していきます。
小説作法:三点リーダーの使い方は気になるが……
小説作法は特に問題ないですが、個人的に気になった点は「三点リーダーの使い方」です。とはいえ私もそこまで詳しくないので、気にするレベルではないかと思います。
当作品では「……、」という書き方をしていますが、三点リーダーの後に句読点を入れるか入れないか……私は入れない派なのですが、どちらが良いのでしょうか。
もっとも、当作品ではこのように表現することで登場人物の息の詰まった感じを表現する、などの目的があるのではないかと思います。
読みやすさ:多様な表現だが難しい漢字が多い
高い表現力で物語が構成されており、読みづらさは感じませんでした。
ただ、難しい漢字を使いがちになってしまっているので、あえて漢字変換せずにひらがなで表記する(開く)ことも読みやすさを追及する上では必要ではないかと思います。
総評:表現豊かで高い文章力
漢字や表現技法で気になる人は気になるかもしれませんが、個人差レベルなのであまり気にしなくても良いと思います。様々な比喩表現や描写を駆使しているため、恐らく作者と読者との間で想定している場面に差はないと感じます。
以上のことから、表現力については5段階中「5」と評価させていただきました。
構成力 ★★★★☆
「構成力」では、主にストーリーの流れについて評価をしていきます。
世界観になじみやすい構成
当作品は以下のような構成がされています。
- 主人公の生い立ち、生き様の提示
- 主人公の能力を見せる
- 主人公が事件(イベント)に巻き込まれる
- エピローグ
ファンタジーにおける最初の難関として、「いかに読者を世界観に入りこませるか」というものがあります。現実世界とは違い、今どんな状況でどんな世界にいるのかということを分からせなければならないため、序盤は説明がおおくなりがちになります。
当作品では自然な流れで世界観を描いており、主人公がどんな人物でどんな能力を持っているのか披露しているため、読者は安心してストーリーを読むことができるのではないかと思います。
短編向けの設定を
当作品は「読み切り版」とのことで、恐らく今後長編を書くためにこのような設定にしたのだと考えられます。
しかしながら、短編としてまとめるには余計な設定や話があるように感じます。
長編であればこのくらい(もっと説明があってもいい)で良いのですが、短編としてまとめるのであれば、設定の取捨選択をした方が良かったのではないかと思います。
総評:短編としては構成に工夫の余地あり
長編の書き出しなどであれば十分な構成だと思いますが、これを単体作品とみると、消化不良な感じがします。きちんと「短編として仕上げる」ならば、情報や話の取捨選択が必要でしょう。
マンガの読み切りでは、長編の元となったものもありますが、いずれも「読み切りとして」の完成度が高くなっています。今後書く話やこの話をもとにして長編を書くことありきではなく、短編なら短編としてしっかり設定を消化できるようにした方が良いと思います。
以上の観点より、構成力については5段階中「4」と評価させていただきました。短編としてまとめる能力があると、よりしっかりとした読み切りの話になると思います。
キャラクター ★★★★☆
「キャラクター」では、登場人物の魅力、設定について評価していきます。
しっかりと設定された主人公
当作品では主人公の生い立ちや能力をしっかり書けており、短編とはいえ主人公の設定がしっかりできていると感じました。
また、登場人物についても悪役キャラやヒロイン? も明確な役割を持っており、主人公を引き立たせる十分な役割を果たせていると思います。
短編にしては登場人物が多い
キャラクターはしっかり作れる方だと思いますが、いかんせん4000文字程度の短編としては登場人物が多すぎると感じます。これは今後長編へつなげるために構成上このようになっていると思いますが、短編でまとめるならばエピソードや登場人物はもっと削った方が良いでしょう。
総評:主人公の設定は良いものの……
主人公の設定については良いと思いますが、短編の性質上どうしても登場人物が多く感じてしまいます。もちろん多く感じさせないストーリー展開となってはいますが、いかんせん必要なのか疑問な登場人物、ストーリーがあるため、単体作品と見ると全体のキャラクターの魅力が薄くなっている印象があります。
以上の観点より、キャラクターの評価については、5段階中「4」とさせていただきました。長編の序盤として見ても、キャラクターの設定を練り込む余地はあると思います。
オリジナリティ ★★★☆☆
「オリジナリティ」では、他の同系列の作品とどのくらい差別化できているかを評価します。
しっかりとした王道的展開
構成力でも書きましたが、ファンタジーとしてしっかりと王道展開をしており、読者は安心して先を読むことができるでしょう。
また、単に魔導士という設定だけでなく、主人公の秘密やその経緯、設定を活かしたストーリー展開など、「王道の基礎がしっかりできている」という感じがしました。
短編ファンタジーとしては物足りない
ただ、何度も書いている通り、長編を意識したストーリー構成になっており、短編としての魅力はやや薄いという印象があります。
「続きが気になる」とは思いますが、短編としてみた時には「ちゃんと書けているなー」という印象しかなく、「これはここがおもしろい!」と言える印象的なものが感じられませんでした。
総評:短編としてのオリジナリティは足りない
設定や結末はそこまで珍しいものではなく、単体作品としてのオリジナリティはあまり高くないという印象でした。
以上の観点より、オリジナリティの評価については5段階中「3」とさせていただきました。やはり当作品の設定と「短編」という形式が相性が悪いのではないかと思います。
総合評価 ★★★★☆
以上の評価をまとめると、私の評価は以下の通りになります。
文章力 | ★★★★★ |
構成力 | ★★★★☆ |
キャラクター | ★★★★☆ |
オリジナリティ | ★★★☆☆ |
総合評価 | ★★★★☆ |
長編小説の書き出しであれば、十分なクオリティであると思います。しかし、短編と見た場合では構成力やオリジナリティにやや難があると思わざるを得ませんでした。読み切り、短編とするならば、それ相応の設定や構成が必要だと感じました。
改善した方がよいと思う点
ここでは、私が「こうした方がいいのでは?」「こうしたら読んでもらえるのでは?」と考えたことを書いていきます。
ただし、当作品は今後長編へ展開するための読み切り、いう立ち位置にあると推測されるため、あくまで「短編小説としてまとめるなら」という観点で改善点を挙げておきます。
短編向けの設定に
何度も書いていますが、短編、読み切りにするのであれば、設定も短編や読み切り用に工夫する必要があります。
ファンタジーというジャンルの都合上、説明が多くなるため、凝った設定は作りにくくなります。そのため、長編に向けた読み切りとはいえ、短編に必要な要素のみ抽出する必要があるでしょう。
- 話の軸になる設定は何か?
- 話を進めるために必要な設定は何か?
まずはこれだけを考え、不必要に風呂敷を広げ過ぎないようにした方が良いでしょう。
エピソード、登場人物を最適化
長編の書き出しなら十分でも、短編だと余計な話になるエピソードが存在します。
例えば主人公の能力を見せる場面も、そのためだけに一つのエピソードを作ると短編ではメインのエピソードの印象が薄くなりがちです。見せ方に工夫をすることで、よりメインのエピソードに注目が集まりやすくなるのではないかと思います。
これに伴い、キャラクターも整理すると良いと思います。特に最後に出てくるキャラクターは、短編の時点では何故唐突に出てきたのかよく分からなくなっています。
適切なルビ、漢字の利用を
読みやすさの話になりますが、当作品では普通の人が読める漢字にルビを振ったり、開くべきところで漢字にしていったりと、適切な変換がなされていないように思えます。
難しい表現を多用したり、何でも漢字変換するのではなく、適切な語句を利用し、適切な漢字変換をするのが語彙力がある人がやることであり、読者への配慮です。
この点についてはターゲットとなる読者層との兼ね合いになりますが、中高生が読めそうもない漢字はルビを振る、補助用言は漢字にしないといったところが基本となるのではないかと思います。
ターゲット層と主戦場は?
ここでは、どんな人を読者のターゲットとし、どういった場所で高評価が得られそうかを分析していきます。
ターゲットはファンタジー好きなラノベ世代
当作品は魔法を主軸としたファンタジー作品であるため、当然ターゲットは中高生、もしくはラノベに親しみのある20代から30代となると考えられます。ですので、あまり難しい表現は使わず、分かりやすい描写を心掛けると良いと思います。
長編として公募への検討を
恐らくは長編への前哨戦としての役割があると思いますので、ここはきちんと設定を活かして10万文字程度の長編作品に仕上げてもらいたいと思います。
伏線となる要素はいくつもあるため、その点を活かせばオリジナリティある作品になるのではないかと思います。ただ、魔法を主軸とした作品は数多くあるため、現在の設定だけでは入賞は難しいかもしれません。さらに他の要素を掛け算することで、ぐっと作品の質が上がるのではないかと思います。
短編としての評価は難しい
ここまでずっと書いている通り、短編としての評価は難しいと思います。というのも、仮にこの作品を短編小説賞に出したとすると、より短編向けの作品が評価されやすい、という点が挙げられます。
やはり今回の設定であれば、長編として発表するのが良いのではないかと思います。
作者の今後の課題
主軸となるアイデアをもう1つ
長編で書くにしても短編で書くにしても、ストーリーの進行自体は問題ないと思います。
ただ、やはりインパクトのあるアイデアというものがなく、物足りなさを感じてしまいます。
今のネット小説、目立った特徴がないと、いくらしっかり書けていても読まれない傾向にあるため、もう一つ「この作品にはこれ!」といったアイデアを付け加えた方が良いのではないかと思います。
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短編と長編の書き方の違いを考える
短編小説と長編小説は、どちらもベクトルの違う難しさがあります。
短編小説では、少ない字数でいかに書きたいことをまとめられるか、という能力が必要になります。長編が得意な方は、短い文章でまとめるのに苦労する人が多いらしいです。
ただ、終わりが見えやすく、「完成させた」という実感がわきやすいですので、長編が得意な方も是非チャレンジしてもらいたいと思います。