2020年8月14日

小説評価シート⑨ SchwarzeKatzeさん

投稿者: フィーカス

 評価シート第9回です。

 短編小説と長編小説では、評価するポイントが異なってきます。たとえば、短編だと登場人物の設定は大きなウエイトを占めませんが、長編だと登場人物の設定が結構重要になってきます(もちろん作品の方針、ジャンルなどにもよりますが)。

 私は短編の方が得意なので、長編を読むとどうしても長編を低く評価しがちにになります。どこかミスや読みにくさを感じると減点しがちになりますから。

 そういったこともあるため、「人の評価に絶対はない」と思ってください。例えベテラン編集者の評価が低くても、他の人からは評価が高い場合もあります。

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SchwarzeKatzeさんの小説の評価シート

 今回はSchwarzeKatzeさんの「死者からのメッセージ」の評価シートを作成しました。

 ※評価シートにはネタバレが含まれています。まずは本文を読んで、どんなところがおもしろいか、改善点は何かを考えてみましょう。

あらすじ

 交通事故で恋人の香奈を亡くした俊二は、悲しみにくれながら彼女の遺品整理をしていた。その時、香奈を名乗る者からスマホでメッセージが届いた。いたずらかと思ったが、本人しか知らないことを次々答えているため、本人に間違いない。香奈のメッセージによるアドバイスで香奈との思いを断ち、幼馴染の早織と付き合うことになった。だが、そこからが恐怖の始まりだった。

当作品の見どころ

 当作品は、「死者からのメッセージ」を中心とした、世にも奇妙な物語にありそうな短編ヒューマンドラマである。死者から何かしらメッセージが届くという題材は珍しいものではないが、導入部から考えられた物語構成によって、うまく題材の良さを引き出している。

 見どころは、死者からのメッセージのやり取りを使った、俊二、香奈、早織の三人の人間関係の描き方だろう。死者からのメッセージから次々と明かされる真実に、読み進む手が止まらない。


文章力 ★★★★★

「文章力」では、主に小説作法や読みやすさ、読者の観点からきちんと情報が伝わるかなどについて評価していきます。

非常に読みやすい文章

 実際に読んでみた人は分かると思いますが、非常に読みやすく物語の内容が入りやすい文章になっています。

 やや箇条書きだったりセリフが長く続いたりする場面もありますが、うまく空行で区切ったり適切な長さの文章にしたりすることで、読みやすい工夫がされていると思います。

 難しい言葉もそんなに使われておらず、物語に集中できる書き方になっていると思います。

総評:文章力は申し分なし

 人によってはもう少し硬めの文章でもよいと感じるかもしれませんが、読みやすくする工夫がされていますし、私からは何も言うことはありません。

 従いまして、文章力については5段階中「5」と評価させていただきました。


構成力 ★★★★☆

「構成力」では、主にストーリーの流れについて評価をしていきます。

起承転結の整った美しい構成

 起承転結(あるいは序破急)といえば、物語を作る上で意識したいポイントです。それは短編も同じで、書き始めた人は特に意識して書くと良いと思います。

 当作品では恋人との別れ、遺品整理から始まって(起)死んだはずの恋人からのメッセージが届く(承)、別の幼馴染と付き合うようになってからの急展開(転)、そしてオチ(結)、というきれいな構成となっています。

 まさに文字通りの「起承転結」となっており、お手本となる構成ではないでしょうか。

オチが分かりにくい

「死者からのメッセージ」というオカルト的な題材を取っていますが、オチの部分では近未来的な技術で主人公(俊二)が死んだ彼女との交信を試みています。

 作者としては「実はこういう行動を取ったから結果としてこうなった」という「原因」を描きたかったのだと思うのですが、私個人としてはこのまま「何故彼女からメッセージが届いたのか分からない」として話を進めた方がよかったのではないかと思います。

 ガラスが割れて終わっている点も、考察が好きな人からは「多分こういうことだろう」という様々な想像ができて「面白い終わり方」だと感じる一方で、「よく分からない」と思う人もいるのではないでしょうか。

 この辺については読んだ人それぞれで異なる感想があると思いますが、私個人としては「オチがよくわからない」という印象でした。

総評:非常によくできた構成だがオチのとらえ方は個人差がある

 多種多様な作品を書かれている方なので、しっかりとした構成ができていると思います。ただ、オチについてはとらえ方の個人差が大きいと考えます。

 以上の観点より、構成力については5段階中「4」と評価させていただきました。ただし、満点をつける人も当然いると思います。


キャラクター ★★★★★

「キャラクター」では、登場人物の魅力、設定について評価していきます。

短編としては非常によく設定が作りこまれている

 短編小説の場合、登場人物の設定をやりすぎると物語が薄くなりがちになります。当作品では登場人物の性格が物語の根幹になっており、よく作られた設定になっていると思います。

 そのほとんどは香奈の語りから来るわけですが、香奈と早織、それぞれの性格を示すことにより、何故香奈が早織を恨んでいるのか、何故このような物語の展開になったのかがよく分かるようになっていると思います。

総評:短編だが個性が出ている

 キャラクターの作りこみはある程度必要ですが、それは物語を進めるために必要なものです。キャラクター中心の話もありますが、そういうコンセプトがない限りは物語に応じたキャラクター作りが必要になると思います。当作品では登場人物の性格が物語にきちんと反映されているといえるでしょう。

 以上の観点から、キャラクターの評価については、5段階中「5」とさせていただきました。


オリジナリティ ★★★★☆

「オリジナリティ」では、他の同系列の作品とどのくらい差別化できているかを評価します。

よくある題材だがうまく使いこなせている

 死んだ人から何かしらの手段でメッセージが届く、という話はそこまで珍しいものではありません。そもそも完全なオリジナルを出すことは困難ですから、既存の題材をどのように描くかが重要となってきます。

 当作品ではあたかもその場にいるような感覚でメッセージを送られているという点が、一番の特徴だと思います。単に本人しか知らないはずのことを知っているだけではなく、その場の言動にすら反応されるのは恐怖でしかないでしょう。

総評:題材の使い方が素晴らしい

 よくある、見たことがあるような話でも、見せ方によって斬新な話だと感じさせることができます。ある意味ではそれこそがオリジナリティであり、筆力の高さを表現できる部分ではないかと思います。当作品はそれがいかんなく発揮されていると感じました。

 以上の観点より、オリジナリティの評価については5段階中「4」とさせていただきました。満点とはしていませんが、満点よりの4です。

総合評価 ★★★★★

 以上の評価をまとめると、私の評価は以下の通りになります。


文章力 ★★★★★
構成力 ★★★★☆
キャラクター ★★★★★
オリジナリティ ★★★★☆
総合評価 ★★★★★

 完成度が高く、まさに「日常の謎」にふさわしい内容となっていると思います。

 特に題材の使い方については非常に高評価ではないかと思います。オチについては個人差があると思いますが、それ以外は特に言うことは無いと思います。

 以上の観点から、総合評価は5段階中「5」とさせていただきました。とても面白い作品だと思います。


改善した方がよいと思う点

 ここでは、私が「こうした方がいいのでは?」「こうしたら読んでもらえるのでは?」と考えたことを書いていきます。

「分かりやすいオチ」にしてはどうか

 これは個人的な意見ですが、明確な怖さがある分、考察を要するオチではなく、分かりやすく「怖い」を表現した方が作品には合っていると思いました。

 せっかく着信までしているのですから、そのまま彼女(香奈)の声が聞こえてきたり、割れた窓ガラスから斧やナイフが飛んで来たり、もう少し進んで「あれ以来彼女からのメッセージは来なくなった」からの急な着信音で終わらせたり、そういった「分かりやすい怖さ」で終えてもよかったかなと思います。


ターゲット層と主戦場は?

 ここでは、どんな人を読者のターゲットとし、どういった場所で高評価が得られそうかを分析していきます。

どの年代でも好まれる内容

 ホラーやショートショートのような話は、比較的どの年代でも好まれると思います(もちろん個人差はあります)。特に当作品は読みやすいため、10代でも楽しめる内容になっていると思います。

短編への公募で入選可能性は十分

 当作品は完成度が高く、そのままでも入選する可能性は十分にあると思います。特に無理に改良する点も無いでしょう。

作者の今後の課題

さらなる高みへ

 大きな公募へ出しても入賞するポテンシャルは十分あると思います。ライトノベル系ではなく、文芸系への公募が向いていると思います。

 もちろん入賞へのハードルは高いと思いますが、短編長編様々な種類の話を書いていますので、一つ上の公募へ挑戦しても良いと思います。

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感想(1件)



誰を想定読者とするか?

 万人に対して面白いと思える作品というのはそうそうできません。個人の趣味嗜好は様々ですし、好きなジャンルも年齢もバラバラです。

 ですから、「どんな人に向けて書くか」ということはある程度意識した方が良いと思います。ターゲットが決まれば、文体や構成もそのターゲットに合わせて書くことができるでしょう。

 もちろん、好きに書きたい場合はそんなめんどくさいことはしなくてもいいです。しかし、どこかに応募しようと思うのであれば、その応募先がどんな読者層をターゲットにしているかくらいは調べた方が良いと思います。

 ターゲットを絞ることで、入賞する可能性はぐっと高くなると思います。