第10回書き出し祭り 第1会場感想その1
書き出し祭り全感想、第1会場です。
書き出し祭りは執筆側に参加することで書き出しについて深く考えることができ、読者側で参加することでいろいろな発見が得られます。
自分が感じたことは言語化することで具体的になり、身についていきます。また、感想を入れることで作者も喜びますので、積極的に感想を入れて行きましょう。
なお、第1会場の作品はこちらから読めます。
第1会場感想
会場の割り振りは、投稿の早い順で決まります。ちなみに第1会場は投稿受付1分で埋まったそうです。
参加申し込みから投稿受付まで時間がありますが、すぐに投稿ができるということは事前に完璧に準備が終わっているということです。つまり、締め切りを守ることになれている書籍化作家さんが多くなると予想されます。
第1会場はそのような理由もあって、ハイレベルな作品のオンパレードとなります。最初に読まれることが多いので投票数も多くなります。競争率も高くなり、「第1会場を制すれば全体を制す」と言っても過言ではないでしょう。
ということで、第1会場の感想です。10-1-1から10-1-8まで。
なお、小説作法などはどの作品も守れていると思うので、基本的に書き出しとしての魅力やこの先読みたくなるか、などを中心に書いていきたいと思います。
また、個人的に感じたことを書いているので、作者の意図とはずれることがあります。
10-1-1 落日の刻、影は彼方へ
https://ncode.syosetu.com/n0181gl/2/
夏休みに、とある田舎町の「名物」である蜃鬼(しんき? 蜃気楼と掛けていると思われる)の取材に来た学生と、蜃鬼をめぐる事件の物語。書き出しではまだ事件などは起こっておらず、蜃鬼と出会ったところで終わっています。
田舎町ののどかな情景が丁寧に描かれており、ヒロインにも好感が持てます。
そして最後の一言、「笑った……?」の部分でそれまでののどかな雰囲気とは一転、不気味な雰囲気を醸し出したところで終わっているため、非常に続きが気になる展開となっています。
欲を言えば、蜃鬼やそれに関係する何かが事件を引き起こすところまで書いてほしいと思いましたが、しかし不穏な空気を出して「先が気になる」という展開に持っていったのは良かったと思います。無理に内容を詰め込むと、今度は物語のテンポが早くなってしまい、田舎町ののどかな感じが出せなくなっていたと思います。
10-1-2 妖怪屋敷の箱入り娘
https://ncode.syosetu.com/n0181gl/3/
昼間に肝試しで入った屋敷は、「帰らずの屋敷」と呼ばれる場所だった。そこで出会った少女は外の世界を知らなかったため、連れ出そうとするが……
いわゆる「ボーイミーツガール」と呼ばれるもので、本文から察するに少女はこの世界(この時代)の人間ではないと考えられます。書き出しでは、少女を連れ出そうとするところまでで終わっていますが、早くも「少女が外の世界を知らない理由」という謎が提示されており、非常に興味深い内容になっています。
その他にも家の主の正体、何故「帰らずの屋敷」と呼ばれているのかなど、様々な謎がちりばめられていて、外の世界を堪能しながらそういった謎が解かれていくのかなというイメージがあります。
10-1-3 夢の続きを、僕は雨天に綴る。
https://ncode.syosetu.com/n0181gl/4/
高校生の少年と転校してきた少女との、これまたボーイミーツガール的な学園もの。
本作は恐らく夢の中で謎が産まれ、現実世界で謎を解き明かしていく、という形になるのではないかと思います。序盤と考えても分からないことが多く、これからどんどん夢の中で謎が出て来たり解明されたりされると期待できます。
少々日常のシーンが多く、その点でちょっと間延びしていると感じる人もいるかもしれません。ただ、主人公の暮らしぶりが謎の解明や今後のストーリー展開の重要な役割を果たすとも考えられ、序盤でしっかり書くことも大切だと思いました。
ヒロインの印象が弱い気がします。この辺も、次の話以降で徐々に魅力的に書かれていくのではないかと思います。個人的には書き出しの引きとしてはちょっと弱いかなと感じました。
10-1-4 貴方が落としたのはこの金髪の少女ですか? それとも銀髪の少女ですか?
https://ncode.syosetu.com/n0181gl/5/
高校生の主人公が、突然現れた女神に「金髪の少女と銀髪の少女、どちらかが惚れている。真実の愛を見つけなければ死ぬ」という謎の呪いにかけられる、ファンタジックなラブコメ。
まず予想を裏切らないタイトルがいいですね。誰もが知っている物語を、このようにアレンジするのは面白い試みだと思いました。また、書き出しの時点で「これがどういう話なのか」という話の軸も、「どうすればこの話が終わるのか」というゴールも定まっているため、安心して先を読むことができます。意外と最初の数話で示せていない物語って、多いんですよね。
まさしく「これぞ書き出し」と言える、求められる要素をしっかりと織り込んでいる素晴らしい書き出しだと思います。アイデア自体もとても面白いと思います。
ただ、二人の少女との関係や噂についての言及が少なく、「書き出し祭り用に書いた」という感じがします。連載の際にはこの辺を詳しく書くと良いかなと感じました。
10-1-5 俺はサル山のボスになる。
https://ncode.syosetu.com/n0181gl/6/
同級生4人のうち、1人が行方不明であり、その行方を3人が追い求めるといいうストーリー。ミステリーやサスペンスに当たるでしょうか。
当作の面白いところは、たった4000文字の書き出しの中で事態が二転三転するところです。淡々と会話が進んでいるようで突然「え、そうなの?」という展開が何度もやってくる点が斬新と思いました。タイトルの「サル山」の意味も、これから詳しく解明されていくという期待感が持てます。
普通は作品の話の内容や目的、用語などの説明に終始しがちですが、当作は書き出しだけでもかなり話の密度が濃い内容になっていると思います。登場人物が名字だけで最初はどんな人物か分かりにくいですが、徐々に明かされていくのもおもしろいと思いました。
10-1-6 召喚士ルイは友を喚ぶ
https://ncode.syosetu.com/n0181gl/7/
貴族の家に生まれたものの特別な才能もなく、父親にも半ば見捨てられた少年が、最強クラスのメイドと出会うファンタジー。
タイトルの「召喚士」の部分は回収されておらず、書き出しは少年とメイドの出会いの場面で終わっています。
書き出しの部分では主人公の地位や立場などの言及が多く、この先どのように話を進めていくのかが明らかにされていません。あらすじでは「本当の友情を知る物語」となっているため、メイドと共に主人公が成長していくことが予想されます。できればあらすじを読まずとも、「どういう話なのか」が分かればよかったと感じました。
10-1-7 悲愛偏哀、あいしあい。
https://ncode.syosetu.com/n0181gl/8/
事故をきっかけに知り合ったことをきっかけに、少女をストーカーするようになった少年が、彼女の自殺を食い止めようとするストーリー。ジャンルとしてはサスペンスでしょうか。
タイトルやあらすじからは想像しづらいですが、本文を読んでなるほど、そういうことかと思いました。確かに、こういう愛の形もあると思いました。
当作で優れている点は、単に文字だけで「ストーカー」と示すだけでなく、きちんとストーカーとしての行動や部屋の様子が描かれている点です。主人公に対しては嫌悪感と共に、恋愛対象に対する気持ちが伝わる、すなわち共感性が高い作品となっていると思います。
さて、問題は後半部分です。恐らくここは賛否が大きく別れると思います。
主人公の一人称視点で少女に対する思いをずっと語ってきて、物語の方針も固まったところで、突然少女側の視点に切り替わります。
ここで実は少女も少年のストーカーであり、タイトルの「あいしあい」が回収されることになります。短編であれば「うわ、そういうことなのか」という驚きがありますが、長編となると「ここでネタばらしをするのはどうかな」と思います。
まず、連載を前提と考えると、序盤で少女視点を交えるのは得策ではありません。物語の方針が定まっているところで水を差されたような感じになります。少女側の事情が分からない方が、物語としては進めやすく、少年に感情移入しやすくなるからです。
また、ここで視点の切り替えがあるということは、今後少年側と少女側の話が交互に動くと考えられます。こうなると物語を進める難度が一気に上がるのではと懸念されます。
つまり、当作品は書き出し祭りに合わせ、伏線をある程度回収しようと考えた結果、このような方法を取ったのではないかと思います。
従って、「1位票が入るかまったく票が入らないか」レベルで好き嫌いが分かれるのではないかと考えています。ストーリーはとても面白いのですが、書き出しとしては疑問が残ります。
10-1-8 天才どもを、喰い殺せ
https://ncode.syosetu.com/n0181gl/9/
10年以上絵を描き続けた少年が昨日絵に興味を持った転校生の絵に劣等感を抱き、転校生を通じてスランプの原因となった先輩に復讐を考える学園ストーリー。ラブコメとなるのか王道学園ものとなるのか分かりませんが、多分王道学園ものとなるでしょう。
最初に一行「——それは、まるでブラックホールだった。」という言葉をいれているのは良かったと思います。読者はここで「え、どういうこと?」と思い、先を読みたくなります。最初の数行で引き込まれるかどうか、これは書き出しでも大切なことでしょう。
書き出しは転校生の少女から主人公の弟子になりたいという申し出があり、それを承諾したところで終わっています。話の方針が決まっているため、ここからどういう展開になるのか、楽しみな引きになっていると思います。
ストーリー自体も、「吉田沙保里が倒されるまで」の話(吉田沙保里を倒した選手のコーチが、実は数年前吉田沙保里に倒された選手だった)を髣髴させるようでとても面白そうでした。
トラウマの原因についてもう少し言及が欲しいところですが、これを入れると恐らく転校生の絵の凄さが描けなくなったと思います。どこまで書くのか見極めるのも、書き出し祭りの醍醐味といったところでしょうか。
→第1会場その2へ続く
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