小説評価シート④ ゆうさん
評価シート第4回です。
小説でもなんでもそうですが、人には好みがあります。Aさんは好きでも、Bさんは嫌いかもしれません。万人受けする作品というものは、そうそう出来ないものです。
従って、私の評価がそのまま作品の良し悪しを決めるものではありません。これは、仮にプロが作ったとしても同じでしょう。
人生経験を生かして小説家になろう! 今すぐ使える執筆メソッド36の書き方・売り出し方【電子書籍】[ わかつき ひかる ] 価格:999円 |
ゆうさんの小説の評価シート
今回は六葉九日さんの「グッバイ、マイサマー」の評価シートを作成しました。
※評価シートにはネタバレが含まれています。まずは本文を読んで、どんなところがおもしろいか、改善点は何かを考えてみると良いでしょう。
あらすじ
いじめに遭っていた中学生の
当作品の見どころ
当作品は「中学生の夏休み」と「人魚の伝説」を軸にした、青春ストーリーとなっている。また、様々な謎が提示されており、その謎を解きながら進めるミステリー的要素も含まれている。
見どころは、「人魚の伝説」をはじめとした、様々な謎を解明しながらも、中学生の心の変化を追いかけるストーリー展開だろう。学生時代の夏休み、自分は何をしていたか。それを思い出しながら、田舎ののどかな風景を思い描きつつ、主人公になったつもりで様々な謎を追いかけたい。
文章力 ★★★★☆
「文章力」では、主に小説作法や読みやすさ、読者の観点からきちんと情報が伝わるかなどについて評価していきます。
非常に読みやすく想像しやすい文体
当作品は一人称での進行ですが、きちんと登場人物の心情にそって話を進めており、読みやすくなっています。
小説作法も特に問題なく、ネット小説用として適度に空行を空けているため、ストレスなく読めるのではないかと思います。
語り手の年齢がやや高めに感じる
一方で、設定は中学生というものの、読んでいる限り高校生くらいの語り手という印象を受けました。可能な限り平易な表現を使っていると思いますが、表現はもう少し幼くすると、より読者の印象が中学生よりになるのではないかと思います。
総評:ものごとを強く印象付けられればなお良かったか
登場人物の年齢の印象もそうですが、「いじめ」や「家庭内暴力」といった描写も、そこまでひどいという印象は受けませんでした。例えば具体的にいじめられている場面をいくつも出したり、暴力を振るわれているところをしっかり描写したりすれば、より登場人物へ共感できたのではないかと思います。
恐らく謎解きやストーリー進行が気になり、上記の点については文章で説明するだけにとどまったのではないかと思います。
以上のことから、表現力については5段階中「4」と評価させていただきました。読みやすい文章ではありますが、印象付けたいところに力を入れると、より面白い文章になるのではないかと思います。
構成力 ★★★★★
「構成力」では、主にストーリーの流れについて評価をしていきます。
考え抜かれた物語の構成
当作品は以下のような構成がされています。
- 登場人物の紹介、出会い
- 人魚の伝説に関する紹介
- 日常とイベントの繰り返し
- 大きな事件
- 大きな謎の解決
- エピローグ
序盤からいくつもの謎を仕掛け、徐々に謎を解きながらきちんと最後につなげる、という構成ができていることから、「最初にゴールを決めて話を構成する」ということをきちんとしているのではないかと考えられます。
長続きしない人は、ゴールを決めていなかったり、どのような展開にするか決めず、行き当たりばったりになりがちです。しかし、当作品ではそのような傾向はあまり見られなかったため、きちんとプロットを組んでいるという印象を受けました。
その一人称視点切り替えは必要なのか?
当作品は主に主人公である清弥視点の一人称で描かれていますが、ところどころで鈴美視点に切り替わるところがあります。
一人称だから視点切り替えをしてはいけない、というルールは無いですが、極力やらない方がいいと私は考えています。一番の理由は「語り手が知っている情報以外の情報が入ってしまう」ことで、意外と無視できない要因ではないかと思います。
さて、当作品では、鈴美への視点切り替えは必要なのでしょうか。私は「やらなくても十分書ける」と考えています。
どの場面も鈴美や他の登場人物からの伝聞という形で状況を知ることができますし、恋愛要素がある都合上鈴美の気持ちはあまり知らない方が得策ではないかと思います。こういった点からも、鈴美視点の描写は不要だと考えました。
ただし、千夏の回想の場面では、千夏の一人称で語る方が効果が大きいでしょう。千夏の心情が知れますし、主人公もその話を聞いているので、共感性が損なわれることもありません。
総評:非常に高い構成力
一人称視点切り替えの問題はありますが、登場人物の日常と特別なイベントのバランスが良く、解決へ向けての筋書きも良くできていると思います。
イベントごとの起承転結もきちんとしており、物語の構成力は高い作者であると感じました。
以上の観点より、構成力については5段階中「5」と評価させていただきました。面白いアイデアがあれば、すぐにしっかりとした物語を書けるのではないかと思います。
キャラクター ★★★★☆
「キャラクター」では、登場人物の魅力、設定について評価していきます。
主要登場人物のキャラづくりはOK
当作品では卯花清弥、風馬鈴美、尼ヶ瀬千夏の3人を主な登場人物としており、それぞれの成長や心情の動きを追っている形になっています。
清弥と鈴美に関してはやや平凡な中学生、といった印象を受けるかもしれませんが、物語の立ち位置はしっかりしており、主要人物については十分な設定がされているといえるでしょう。
悪役が弱い
一方で、ある意味重要な役割を持つサブキャラクターの印象が弱いのではないかと思います。例えば清弥をいじめていたリーダー各である海堂ゆかは、説明やセリフで清弥をいじめているシーンはあるものの、具体的ないじめをしているシーンが少なく、そこまで酷いいじめをしている印象が持てません。
同じく、鈴美を虐待していると言われている叔父の保も、虐待しているシーンがわざわざ視点切り替えして描写した1シーンのみで、酷さが物足りない印象でした。
こういった悪役は、とがっているくらい悪役に徹した方が、主人公たちへの共感性が高くなるのではないかと思います。特に当作品では、保の鈴美への虐待は清弥の学校でのいじめとの対称性、ゆかの清弥へのいじめは千夏への共感性に影響してくるため、より「残虐」なイメージを付けるとよかったのではないかと思います。
総評:サブキャラクターのキャラ付けもしっかりと
主要人物のキャラ付けは、物語が進むにつれて自然にできてくるものですが、あまり登場しない人物については、ある程度キャラ付けをしっかりしておかないと印象が弱くなります。
特に物語に影響する要素のきっかけとなる場合は、ある程度とがったキャラ設定をすると、物語がより引き立つのではないかと思います。
以上の観点より、キャラクターの評価については、5段階中「4」とさせていただきました。サブキャラクターのキャラ設定も手を抜かないことで、より面白い話になると思います。
オリジナリティ ★★★★★
「オリジナリティ」では、他の同系列の作品とどのくらい差別化できているかを評価します。
要素をうまくかみ合わせている
当作品のコンセプトとしては、「中学生の夏休み」「人魚の伝説」「いじめ、虐待」が主な要素となると考えられます。
一つ一つはよくある話ではありますが、それらをうまく組み合わせることによって、オリジナリティを生み出すことができます。
当作品では、それぞれの要素を、お互いを殺さないようにしっかりと嚙合わせることで、オリジナリティが出ている作品と言えるのではないかと思います。
突き抜けたアイデアが無い分、基本をきちんと押さえている
上記の要素としては、突き抜けた要素、すなわち誰もが考えないような突飛なアイデアはありません。
しかし、アイデアとしてはそこまで突き抜けていなくても、基本的な話の進め方や要素の使い方、その要素の絡ませ方などがうまいと感じました。
総評:要素をうまく料理できた作品
最近では突拍子もないアイデアがないと読まれない、というような傾向があるかと思いますが、変なアイデアに頼らずとも、既存のアイデアの掛け算で、いくらでもオリジナリティを出すことはできます。当作品は、それらがうまくかみ合っているといえるでしょう。
以上の観点より、オリジナリティの評価については5段階中「5」とさせていただきました。欲を言うならば、他の作品にはない「ここがおもしろい!」というポイントがあるとより良かったのではないかと思います。
総合評価 ★★★★☆
以上の評価をまとめると、私の評価は以下の通りになります。
文章力 | ★★★★☆ |
構成力 | ★★★★★ |
キャラクター | ★★★★☆ |
オリジナリティ | ★★★★★ |
総合評価 | ★★★★☆ |
やはり特筆すべきは高い構成力で、推理ものやミステリーを書かせると非常に面白い話が書けるのではないかと思いました。すべて理論的に進めるのでもなく、抜けのある構成でもなく、バランスの良い構成となっていると思います。
オリジナリティは「5」の評価を付けましたが、現在のネット小説の状況を考えると、インパクトという点に関してはやや抑えめであるという感じは否めません。まだまだ上を目指せるということを信じて、総合評価は5段階中「4」とさせていただきました。
改善した方がよいと思う点
ここでは、私が「こうした方がいいのでは?」「こうしたら読んでもらえるのでは?」と考えたことを書いていきます。
読者の感情を揺さぶる描写を
上記の評価にもありますが、「いじめ」や「虐待」の描写についてはもっと多く書いてもいいのではないかと思います。
読者はちょっとの感動や気持ち悪さではあまり心が動きません。面白い作品には必ず「大きく感情を揺さぶられる」シーンが存在します。それは涙を誘う感動的なシーンだけでなく、吐き気のするような残虐なシーンにも当てはまります。
当作品では「いじめ」や「虐待」は物語の根幹にも関わってきますので、より印象に残るように書いた方が良かったのではないかと思います。
ラストがやや盛り上がりに欠ける
完結作品ではありますが、読者に想像させるような書き方が多く、謎が数多く残った状態での終わりになってしまっています。
- 告白っぽいのはあったけど結局清弥と鈴美はどうなったの?
- 千夏は本当に何百年も生きているの?(ケガの治りなどのにおわせはあるものの千夏が語っているだけにすぎない)
- 本当に人魚の肉を食べたら不老長寿になるの?(同上)
- 何故人魚を見て適性が無かったら死ぬの?
- 10年後に3人で会って何したの?
もちろんすべての謎を解く必要はなく、「こういうラストがいい!」という読者もいると思います。ただ、私としては謎が多すぎてもやもやしたラストになっていると感じました。
多分読者は「最後はチューくらいしろ!」という気持ちになっているのではないかと思うので、この辺くらいははっきりした方が良かったのではないかと思います。
また、千夏が何百年も生きているというのも、客観的な証拠に欠けると思いますので、「何百年も生きていなければ分からないこと」を提示するなど、説得力のある話があれば良かったのではないかと思います。
ターゲット層と主戦場は?
ここでは、どんな人を読者のターゲットとし、どういった場所で高評価が得られそうかを分析していきます。
学生時代を懐かしむ20代から40代あたりか
当作品は青春ドラマを主軸とした話となっているため、学生時代を思い出しながら楽しめる20代から40代あたりの人がターゲットとなるのではないかと思います。もちろん、10代でも楽しめる内容となっています。
青春、学生系に強い公募を
最近ネット小説の公募というと、異世界を始めたファンタジー系統が強いですが、文芸としての作品に強いところはまだまだあります。
例えばアルファポリスでも青春大賞とかやっていますし、そういったところの公募を目指しても良いのではないでしょうか。
ネットよりも文芸誌などは?
小説投稿サイトでは上述のアルファポリスやエブリスタが割と文芸作品では強い印象があります。
しかし、とはいえネット小説は競合が激しく、文芸作品はかなりとがっていないと読んでもらうことが難しい世界ではないかと思います。
となれば、文芸雑誌の公募などにチャレンジしても良いのではないかと思います。ただしネット小説とは違うので、公募の際には縦書きに直す、空行を削るなどの作業が必要となります。
作者の今後の課題
とがったアイデアにもチャレンジ
平凡なアイデアでも掛け算で組み合わせてオリジナリティを出す力はあると思います。
ただ、ネット小説では相変わらずインパクトがある作品が強く、アイデアが平凡だとまず読んでもらえない可能性が高くなっています。
安定した文章力はあると思うので、思い切ったアイデアで勝負してみるのもいいかもしれません。新しい世界が見えてくるのではないでしょうか。
価格:1,430円 |
アイデアは掛け算でオリジナリティを
小説を書く際、どうしても「アイデアが思いつかない」「どこかで読んだような内容になってしまう」ということがあると思います。インプットを続けていると、その内容に引っ張られてしまい、自分のアイデアが出てこなくなることはあるでしょう。
仮に面白いアイデアが出てこないとしても、アイデア同士の掛け算をすることで、自分だけのアイデアを生み出すことは可能です。
なぜか大喜利で有名になった深田えいみさんも、「AV女優だけ」「大喜利だけ」であれば上はいくらでもいます。しかし、「大喜利ができるAV女優」となったとたんに、オリジナリティある人になりました。
オリジナリティに詰まったら、アイデアの掛け算をしてみましょう。思いもよらない相乗効果で、面白い物語が産まれるかもしれません。
MuuMuu Domain!